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令嬢は元暗殺者に恋をする
第15章 星夜の語り
 サラを追い出すため扉を開いたシンは息を飲んで立ちつくす。先ほど自室へと入っていったはずのテオがもの凄い形相で目の前に立っていたからだ。

 寝る前の読書か、小脇に分厚い本をかかえていた。

「おまえの部屋で話し声が聞こえると思ったら」

「えっと……」

 テオは上半身裸のシンの姿にまなじりを細める。

「こんな時間に部屋を暗くして、それも、おまえ裸じゃないか! いったい何をしていた!」

 何とも間が悪かった。
 この状況でこの恰好で、純粋に星を見ていましたと言ってもこの男は信じてはくれまい。

「テオ、まだ起きていたのね。明日の干しぶどう入りのパンとても楽しみにしているから。じゃ、二人ともお休みなさい」

「おい、ちょっと待て!」

 慌てるシンの誤解を解くこともせず、そのまま置き去りにして、サラはさっさと自室へと戻っていってしまった。

「おまえ、サラに何もしてないだろうな」

「あ、あたりまえだ! 何もしていない。するわけがないだろ!」

「ほんとか? って、な、な、な……何なんだよおまえ! それ、その背中!」

 テオが悲鳴にも似た声を上げ、持っていた分厚い本を振り上げる。

「いや、これにはいろいろとわけがあって……ひっ、その本やめて……それ凶器だから! 凶器凶器! そんなんで殴られたら痛いだけじゃ済まないから!」

「黙れ! 悪党!」

「それにその本、医学書じゃねえか。それで人を殴るか!」

「うるさい!」

「待って、ちょっと待って!」

 と……シンの情けない声が深夜の診療所内に響き渡った。
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