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令嬢は元暗殺者に恋をする
第16章 再びハルに会いに
 ベゼレートの診療所は、午前の診察を終え、つかの間の休息をむかえようとしていた。そして、その診療所の厨房では。

「朝から特に何をするわけでもなく、ずっと裏街をふらふらしてるんですよ」

「俺たちの存在に気づいてはいるみたいだけど、全然、無視って感じっすね」

 厨房の作業台で何やら手を動かしているシンと、窓からその様子をのぞき込んで喋っているのは、昨日、裏街で出会った少年二人。

「とりあえず、裏街を出て行く気配はないみたいです」

「悪いな。おまえらにあいつの見張りをさせちまって」

「いいえ! 頭の頼みなら喜んで!」

「そうっす!」

「それにしても、裏街をふらふらだと? まったく、あいつは暇なのか」

「見るからに、暇をもてあましている感じですね」

「ち、羨ましいご身分だな。俺がこんなに一生懸命働いてるってのによ」

「で……そういう、頭(かしら)は何してるんですか?」

 少年たちはシンの手元を食い入るように見つめている。

「見りゃわかるだろ。さやえんどうの筋とってんだよ」

「……」

 少年たちは顔を見合わせた。

「カイさんが、頭のこんな姿を見たら発狂しちゃいますよ」

「いや、カイさんじゃなくても、誰が見ても目ん玉、飛び出しますって。ってか、誰なんです? 頭にこんなことやらせている奴は!」

「案外、やってみると楽しいぞ」

「そうっすか……?」

「このさやえんどうの筋が途中で切れちまった時の悔しさというか、もどかしさがおまえらにはわかるか?」

 少年たちは全然わかりません、と揃って首を振る。

「でも、いいんです。頭が何をしてようと、俺たちの憧れであることに変わりはないっすから」

 少年の一人がしみじみとした声を落とす。
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