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令嬢は元暗殺者に恋をする
第16章 再びハルに会いに
「それはそうと、頭はいつ裏街に戻ってくるんですか? まさかここで住み込みで働くつもりじゃ」

「そんなわけねえだろ。俺もどうしたもんかって頭悩ませてんだよ」

 手にしたさやえんどうを見つめながら、シンはうーんと唸る。

 サラがあいつに会いたいと願ったところで、相手にその気はまったくない。

 つまり、会わせるだけ無駄ということだ。

 何とか説得して、あきらめさせるしかねえよな。
 はあ……。

 これで何度目のため息だろうか。
 もはや、数えるのもばかばかしい。
 とにかく今は何も考えたくねえや。
 作業に集中しよう。

「でも俺、滅多に近寄れない頭と、こうして話ができるのが嬉しいっす」

「確かに裏街じゃ、なかなか頭の側に寄れないからなあ。みんな頭に憧れているんですよ」

 そうか? と答えるものの、シンは手元のさやえんどうの筋取りに気をとられ、少年たちの話を真面目に聞いている様子ではなかった。

「そうですよ! 表の世界で行き場をなくし、裏街でさまよって行き倒れた俺を頭は拾って仲間にいれてくれた」

 少年はぐずりと鼻をすすった。

「おまえ、頭の前で泣くなんてみっともないぞ。っていうか、いきなり話が飛んでるし」

「そういう、おまえだって、裏街で殺されかけたところを頭に助けてもらったんだろ?」

 ああ……と、もうひとりの少年はその時のことを思い出しているのか、どこか遠い眼差しで視線をさまよわせる。

「あの時の、剣を振るい次々と敵を倒していく頭の姿は今でも俺忘れられないっす。かっこよかったっす」

「その憧れの頭が、今はさやえんどの筋取りとはね」

 背後からかけられた声に、シンと少年たちは視線を上げる。
 振り返ると厨房の入り口で、こちらをのぞきこむようにテオが立っていた。

 さやえんどうを手にしたシンの姿を見て、テオはふっと意味ありげな嗤いを口許に浮かべる。
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