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令嬢は元暗殺者に恋をする
第17章 あなたの瞳に私をうつして
 陽の光が届かない建物の壁際に、ひとりの人影があった。

 投じられた黒い陰で、その人物の顔ははっきりとはわからない。けれど、そのどこか突き放したような口調と声は、まぎれもなくハルのものであった。

「その手を離しなよ」

 ハル……。
 私のこと、助けにきてくれたの?

 唇を震わせるサラの目に涙が盛り上がる。
 けれど、ハルの名を呼びたくても喉元に押しあてられた短剣のせいで、声を出すことができなかった。

 六人の裏街の男を前にしても恐れる素振りも見せず、ハルがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

「何だ、おま……え」

 男のひとりが息を飲んだ。

 裏街の、高い壁からわずかに差し込む陽の光がハルの白く端整な顔を照らす。
 男にしては華奢な身体つき。何より印象的なのはその藍色の瞳。そこはかとなく揺らぐ色香を漂わせ、人を引きつけてやまない深く鮮やかな色。

 裏街の男たちはハルの容貌に目を奪われたという様子だ。
 数歩手前まで近づいてきたハルを、上から下まで舐めるように視線を這わせ、ごくりと唾さえ飲み込んでいる。
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