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令嬢は元暗殺者に恋をする
第17章 あなたの瞳に私をうつして
「ず、ずいぶんときれいな顔の兄ちゃんじゃねえか。この国の奴じゃねえな。異国人か? 言葉喋れんのか?」

 男の言葉にハルはばかか? と言わんばかりに肩をすくめる。

 たった今、何をしているのか、その手を離しなと、この国の言葉で喋ったばかりだということを、男たちはすっかりと忘れているようだ。

「それにしても、こっちの女よりも色っぽい顔だちしてねえか」

「たしかに……」

 男たちはへへへ、と下卑た嗤いを浮かべる。
 そんな彼らの視線などものともせず、ハルは再び男たちに言葉を投げかける。

「聞こえなかった? その手を離しなと言ったんだけど」

 男たちはすっかりハルの見た目に騙されているようだ。

「へへ、この女を助けたければ、俺たちを倒すことだな」

「ま、おまえには無理だろうがな」

「そう。じゃあ仕方がないね」

 ハルは右手の指を軽く動かし、ぱきりと鳴らした。

「おまえらを、殺せばいいんだね」

 まるで何でもないことだというように軽く言うハルの態度に、男たちは気色ばむ。

「殺すだと? は! てめえ、誰に向かって口きいてんだ。いいかよく聞け、俺はなあ、この手で数え切れないほどの人間を殺(や)ってきたんだ。てめえごときを捻り潰すなんざあ、わけもねえんだよ」

 男のひとりが自分の黒い経歴をことさら自慢げに話し、ぺろりと分厚い唇を舐めた。
 回りに従う男たちの目にも、ぎらついたものが浮かんでいる。

 ハルはわずかに視線を落とし、緩やかに息を落とす。
 それは投げ遣りなため息であった。だが、次の瞬間、再び視線を上げたその藍色の瞳に、峻烈な光が走る。

「な、何だ、その目はよ!」

 ひとりの男が短剣を振り上げながらハルに向かっていった。
 その攻撃をハルは余裕でかわし、相手の背後に回って男の右腕をつかみ捻りあげる。
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