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令嬢は元暗殺者に恋をする
第18章 カイの秘密
 仲間とともにサラを連れて裏街へと出たカイは、そこで胸のあたりで手を組み、落ち着かない様子で待機していたエレナを見つけた。

 年は十五、六ほど。長い茶色の髪を緩く三つ編みにし、両耳の脇で垂らした華奢で小柄な少女だ。

「エレナ、呼び出してすまない。仕事中ではなかったか?」

 もっとも、エレナをここに来るよう指示したのはハルの奴だが。

「そんなこといいの。仕事もちょうど終わってあがるところだったから。それにしても、ひどいわ……」

 裏街で何が起きたのかすぐに察したのだろう、エレナはサラの姿を見るなり、目を瞠らせた。そして、サラの元に駆け寄り眉根を寄せ心配そうにのぞき込む。

「怖い思いをしたのね。大丈夫? 怪我はない? 痛いところは?」

 サラは大丈夫、何でもないと首を横に振った。

「でも、みんなに迷惑をかけてしまった」

「それでも、あなたが無事ならよかったわ」

 心から安堵の息をもらし、エレナはサラの身体をきゅっと抱きしめた。
 一瞬、驚いた顔をするサラであったが、すぐに頬を赤らめエレナの肩に顔をうずめるようにして目を閉じた。

「エレナ、俺はこの子をシンの元に送っていく」

「それはだめ!」

「だめ……?」

「女の子をこんな姿で歩かせるわけにはいかないわ」

「いや、しかし……必ず連れて帰ってこいと、シンに頼まれて……」

「今すぐでなくてもいいのでしょう?」

 エレナが小首を傾げてカイを見上げる。

「それはそうだが、遅れればそれだけシンが心配……」

 しかし、すでにエレナはカイの言葉を聞いていなかった。

「私はエレナよ」

「私はサラ。エレナさんも裏街の人なの?」

 エレナは口許に手を持っていき、くすりと笑った。

「私は違うわ。でも、カイや他のみんなと、とても親しくさせてもらっているの。だから、気持ちは彼ら裏街の男の人たちと一緒よ。いつか、この裏街を少しでもいい方向に変えていこうって……」

 そうなの? とサラは側で難しい顔をして立っているカイを見上げた。
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