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令嬢は元暗殺者に恋をする
第18章 カイの秘密
「だめだ」

 即座に返ってきたカイの答えに、サラは再びしょんぼりとする。
 確かに帰りたくないからといって、いつまでもここでこうしているわけにもいかないのだ。

「きちんと謝ればシンも許してくれるわ」

「うん……」

 慰めの言葉をかけてくれるエレナに、サラはこくりとうなずいた。
 そうして着替えたサラは、カイとエレナとともに診療所までの道のりを歩いていた。

「ねえ、エレナさんはカイとどこで、どんなふうに知り合ったの?」

「私たちが出会ったのは子どものときなの」

「子どものときからずっと一緒なの!」

 それは素敵だわ、とサラは瞳を輝かせる。しかし、エレナの次の言葉にサラは表情を強ばらせた。

「私もカイも家が貧しくて、幼い頃に奴隷商人に売られたの。カイと知り合ったのはその奴隷商人の馬車の中よ」

「え?」

 奴隷商人……?

 貴族の家に生まれ、これまで何不自由なく育ったサラには、あまりにも馴染みのない言葉だった。

「売られた先での生活は本当に地獄のようだった。でも、カイが一緒にいてくれたのが唯一の救いだったわ。カイがいなければ今の私はなかった。だから、彼にはとても感謝しているし、私にとってかけがえのない人」

「エレナさん……」

「そんな顔しないで。私は今とても幸せだから」

 そんな話をしているうちに、やがて診療所が見えてきた。
 ずっと、自分のの帰りを待っていてくれたのか、テオとベゼレートが診療所の前で心配そうに迎えてくれた。

「サラ! よかった。心配したんだぞ」

 サラの肩に手をかけ、テオがよかったよかったと繰り返す。

「テオ、ごめんなさい……」

「いいんだ。君が無事ならそれで。本当によかったよ」

 次に、サラはベゼレートを見上げる。

「先生ごめんなさい」

 ベゼレートはサラの頭を優しくなで、柔和な笑みを浮かべうなずいた。

 そして──。

 扉に寄りかかりながら腕を組み、厳しい顔つきでこちらを見るシンの姿に、サラは泣きそうな顔で口を引き結んだ。
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