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令嬢は元暗殺者に恋をする
第19章 戸惑う気持ち
「俺、やばいかも」

 何が? とサラは小首を傾げる。

 どうして、こんなにもこの少女のことが気になるのか。
 今、ようやくはっきりと気づいた。
 彼女のことが好きだったのだと。

 とうに、俺は彼女に惹かれていた。
 俺、あんたを抱きたくなった。
 この手で優しく彼女を抱き、俺の名を呼ばせたい。
 あいつの名前ではなく、俺の名を。
 シンはぎりっと奥歯を噛んだ。
 だけど、それは叶わぬこと。
 何故なら、彼女の心は自分にはないのだから。
 それとも、本気で彼女を俺のものにしてしまおうか。
 今ここで。

 きゅっと腕の中の少女の身体を抱きしめたその時、ぽてりとサラの頭が肩にのかった。次いで耳元で聞こえる穏やかな寝息。

「おい……」

 身体を離してサラの両腕をつかみ、軽く身体を揺さぶる。

「寝るな。まだ話は終わってないぞ」

 けれど、よほど疲れていたのか、目を覚ます気配はない。

「これだから、お子さまは……」

 シンはやれやれとため息をつき、サラを再びベッドにそっと横たえた。
 すやすやと眠るサラの寝顔を見つめる。

「頼むから、そんな無防備な姿をさらすなよ……」

 シンは困った顔で、サラの頬にかかった髪をそっと指先で払う。そして、サラの顔の脇に手を置きシンは顔を近づけた。
 背に流れるシンの長い髪が、眠っているサラの胸元に落ちる。

 あともう少しで唇が触れそうになった瞬間、シンは苦い笑いをこぼし、サラのひたいに口づけを落とした。
 窓の向こう、夜空にかかる月を見上げ、シンは小さなため息をつく。

「俺、どうしたらいい」
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