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令嬢は元暗殺者に恋をする
第21章 サラのお願い
 しばしの間、じっと見つめ合っていた二人であったが、不意にサラの右手がシンの左耳に伸びた。

「あなた、左の耳にだけ飾りをつけているのね。今気づいたわ。とてもきれいな紫水晶。あなたの瞳と同じね。でも、どうして片方だけなの?」

 サラの問いかけに、シンは瞳を震わせ、ゆっくりと濃い紫の瞳を窓の外へと向けた。

 窓から射し込んでくる陽の光が眩しくて目を細める。
 明け方色の瞳に明るい日差しが重なり、シンの瞳に不思議な色を滲ませた。

「ひとつだけしか見つけることができなかった」

「ひとつだけ?」

 サラは首を傾げた。

「母の形見なんだ」

 落ちた静寂にシンの声が響く。

「あ、私……ごめんなさい……」

「いいんだ……もう遠い昔のことだから」

 それっきり、シンは口を閉ざしてしまう。

 サラも何かを察したのだろう、それ以上、あれこれと詮索してくることはなかった。そして、サラの手がシンの耳から離れる。

「シン……あのね、私明日には帰らなければいけないの」

「帰る? 家にか?」

「うん」

「それはまた、突然だな」

「もう、こうして自由に動き回ることもできないの」

 サラはかすかな笑みを浮かべた。

「家に帰りたくないのか?」

 悲しそうな目をする、サラのふわふわの頭をシンはそっとなでる。

「いつでも会いにいくよ。サラに寂しい思いはさせない」

「シンは本当に優しいのね」

「だから、俺は優しいって言っただろ?」

 サラは泣きそうに顔を歪ませた。
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