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令嬢は元暗殺者に恋をする
第21章 サラのお願い
「じゃあ、もうひとつだけ、シンに甘えちゃおうかな。お願いがあるの」

「お願い? 言ってみろ。俺にできることなら何でもする」

「ほんとう?」

 シンはうなずいた。

「あのね、明晩私の家で行われる夜会に、シンも一緒に来てくれたら嬉しいなってと思ったの」

「へ?」

 夜会? と、シンは繰り返して不可解な表情をする。
 夜会といって思い浮かぶのは、貴族の邸宅で催される豪華絢爛で派手なあれだ。
 庶民の人間には想像もつかない華やか衣装をまとい、目も眩むような宝石を身につけ、優雅な楽曲の中を躍ったり、飲んだり食べたりするあれ……だよな。
 実際に目にしたことはないから勝手な想像だが。

「シンが一緒にいてくれたら私、きっと退屈しないと思うの」

 夜会、夜会と繰り言のように呟くシンの耳に、サラの言葉は届いてないようだ。そんなシンに追い打ちをかけるように、サラは続けて言う。

「私、楽しみにしてる」

 そう言って、サラは手にしていたじゃがいもとナイフをテーブルに置くと、立ち上がって厨房から去っていってしまった。

「おい待て、夜会ってなんだよ!」

 っていうか、逃げられた気もしなくもないが。
 シンはよろめいて椅子に座り直した。

 それにしても……。
 確かにサラはそれなりに裕福な家に育ったという印象はある。が、それでも夜会などとは大袈裟だ。

 シンは首を振り、そこで考え込むように腕を組んだ。
 自分はサラに対して何か勘違いをしているのか。

 シンはサラがどれほどの家柄の娘なのか知らない。
 それもそうであろう。
 よもや、由緒ある貴族のご令嬢がこんな街中を、供の者もつけずに歩き回り、庶民と気安く口を利くとは誰が想像できるだろうか。
 片手をひたいにあて、考え込むシンの目に、またしてもテオの姿が映った。
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