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令嬢は元暗殺者に恋をする
第23章 抱きたい
「まあ、ファルク様、こんなところにいらしてたのね。探しましたのよ」

「ファルク様、わたくしと踊ってくださらない」

 数人の女たちが男の姿を見つけ、わらわらと寄ってきた。
 ファルクと呼ばれたその男は軽く舌打ちを鳴らしつつも、すぐに爽やかな笑みをその顔に張りつける。

「美しいお嬢様方に誘われるとは光栄。私でよろしければぜひ」

 集まってきた女たちは、ファルクの笑顔にさっと頬を朱色に染める。

「まあ嬉しいわ。ファルク様」

「ファルク様、いきましょう」

 ファルクは目をすがめて一度だけサラを振り返ると、彼女たちをともない会場へと戻っていった。
 去って行く男の後ろ姿を見つめ、シンは苦笑いを浮かべてやれやれと頭をかく。

 まったく……どうしてこう、ことごとく邪魔が入るかな。

「サラ?」

 サラは顔を青ざめたまま、まだ小刻みに身体を震わせていた。

「とりあえず、ここから逃げ出すか?」

 シンの提案にサラはようやく顔を上げ、静かにうなずいた。

「よし!」

 バルコニーの手すりにあがったシンは、サラの身体を軽々と抱き上げ、そのまま大きく跳躍して手すりの向こうの地面に降り立つ。
 走って行く二人の姿が薔薇園の、夜の闇へと消えていく。
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