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令嬢は元暗殺者に恋をする
第24章 望まない婚約者
二人は照らされる蒼い月明かりだけを頼りに、トランティア家の裏庭に造られた薔薇園の中の小道を走り続けた。
きらびやかな照明の明かりも、優雅で上品な楽曲も徐々に、背後へと遠のいていく。
「このまま、どこかに行ってしまいたい気分」
両手を大きくかざし、息を切らしてサラは嬉しそうな声を上げる。
「ねえ、シン」
走りながら、後方からついてくるシンを振り返った。
「おい、危ないから前を向けって……」
言っているそばからサラは何かに蹴躓き、前のめりに派手に転んでしまった。その拍子に片方の靴が脱げて飛ぶ。
「大丈夫か!」
慌てて駆け寄るシンにサラは平気、とにっこり微笑む。
身を起こして地面に座り込むサラの側にシンも片膝をつく。
「怪我はないか?」
様子を尋ねるシンの言葉に、サラはドレスの裾をたくし上げた。
「このくらいたいしたことないわ」
膝のあたりが擦りむけ、ほんの少し血がにじんでいる。
かすり傷程度だがそれでも痛々しかった。
シンは持っていた借り物のハンカチをサラの膝に撒いた。
「後で消毒するんだぞ。女の子なんだから、傷を残すな。それからほら、靴履いて」
サラの足首をつかみ、シンは脱げた靴を履かせる。
一瞬、シンの手の動きが止まった。
つかんだサラの足首は自分の指が回ってしまうほどに細かった。
力を入れてしまえば折れそうな程に。
「ありがとう」
無邪気に笑うサラに、シンは戸惑った顔をする。
「さっきの野郎……婚約者って言ってたけど」
突然、サラは表情を曇らせた。
あの男のことを思い出すだけでも憂鬱といった様子であった。
「うん、ファルク・フィル・ゼクス。私の婚約者……」
「そっか……」
驚いたような、そうでないような表情をシンは浮かべた。
きらびやかな照明の明かりも、優雅で上品な楽曲も徐々に、背後へと遠のいていく。
「このまま、どこかに行ってしまいたい気分」
両手を大きくかざし、息を切らしてサラは嬉しそうな声を上げる。
「ねえ、シン」
走りながら、後方からついてくるシンを振り返った。
「おい、危ないから前を向けって……」
言っているそばからサラは何かに蹴躓き、前のめりに派手に転んでしまった。その拍子に片方の靴が脱げて飛ぶ。
「大丈夫か!」
慌てて駆け寄るシンにサラは平気、とにっこり微笑む。
身を起こして地面に座り込むサラの側にシンも片膝をつく。
「怪我はないか?」
様子を尋ねるシンの言葉に、サラはドレスの裾をたくし上げた。
「このくらいたいしたことないわ」
膝のあたりが擦りむけ、ほんの少し血がにじんでいる。
かすり傷程度だがそれでも痛々しかった。
シンは持っていた借り物のハンカチをサラの膝に撒いた。
「後で消毒するんだぞ。女の子なんだから、傷を残すな。それからほら、靴履いて」
サラの足首をつかみ、シンは脱げた靴を履かせる。
一瞬、シンの手の動きが止まった。
つかんだサラの足首は自分の指が回ってしまうほどに細かった。
力を入れてしまえば折れそうな程に。
「ありがとう」
無邪気に笑うサラに、シンは戸惑った顔をする。
「さっきの野郎……婚約者って言ってたけど」
突然、サラは表情を曇らせた。
あの男のことを思い出すだけでも憂鬱といった様子であった。
「うん、ファルク・フィル・ゼクス。私の婚約者……」
「そっか……」
驚いたような、そうでないような表情をシンは浮かべた。

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