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令嬢は元暗殺者に恋をする
第26章 勝負の火酒
「先日の夜会の日、あなたと一緒にいた男性はどなたなのですか?」

 数日後、朝食の席で不意に祖母に尋ねられ、サラは食事をとる手をとめた。
 一日のうちで唯一家族が顔を合わせて食事をとる朝食の時間。

 あからさまに自分と母であるフェリアを避けている祖母がこの席に姿を現すのは珍しいことであった。そして、祖母が姿を現したということは、何かしら自分に話があるということ。
 それも決まってあまりよくない話。

 夜会のことは、いずれ祖母に問いただされるだろうとは覚悟はしていた。

 緊迫した空気が流れる。
 祖母が同席している以上、家族の団欒といった雰囲気はなく、ただ黙々と食事をするだけであった。

 おかげで、食事も喉に通らず、味すらもよくわからなかった。
 おまけに、父様や母様にも話しかけることすらできない。

「お友達よ。退屈にしていた私を気にかけてくれただけ」

 祖母がこの言葉を鵜呑みにするわけがない。案の定、猜疑心剥き出しに祖母は厳しい視線を自分に向けてきた。

「名は?」

「忘れたわ」

「そうですか」

 祖母もそれ以上は何も言わなかった。
 やがて、祖母はナイフとフォークを静かにおいた。
 祖母の皿にはまだ沢山の料理が残っている。

 いつもそう。
 食べきれないなら最初から少な目にしてもらえばいいのに。
 そういうのって、作ってくれた人に失礼だと思うの。

「ゼクス家からの強い要望で、結婚を早めることに決めました。夏の終わりには式をあげる予定です。あなたもそのつもりでいるように」

「そんな!」

 サラは持っていたフォークを皿の上に落としてしまった。
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