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令嬢は元暗殺者に恋をする
第27章 勝負の行方
 すでに卓の上には何本かの火酒の空き瓶が並べられていた。
 その酒をまだ年若い二人が顔色も変えずに、延々と飲み空かしているのだから驚かずにはいられない。

 おのずと他の客たちの注目が二人にそそがれ、どちらかが酒盃を傾けるたびに、おお……っ! と声をもらしていた。

「おい……あの二人、大丈夫なのか?」

「いやいや、シンはともかく、もうひとりの兄ちゃんが心配だな」

「シンは底なしだ。それ知ってんのか? あの兄ちゃん」

 客たちの間でそんな会話も交わされていた。
 中にはシンが酒豪であることを知っている者もいるようだ。

「で、サラには婚約者がいたんだ。何ていったけ? ファルなんとか……」

「ファルク・フィル・ゼクスだ。ゼクス家の次男。そいつに対してあまりいい噂は聞かない」

「そうそう、そんな名前だった……って!」

 シンは空になった自分の酒盃に酒をみたしながら、え? と不思議そうな顔をする。

「なんでそいつの名をハルが知ってる?」

 シンの問いかけにしかし、ハルは答えない。

「あいかわらず謎な奴だな。サラが貴族のお嬢様だってことも最初から知ってたみたいだし。まあ、いいや」

 シンもまた、そんなハルの不可解な態度には慣れているのか、それ以上追求することはしなかった。

「それで、そいつがまたいけ好かない奴で」

 シンはサラに連れていかれた夜会の日のことを、こと細かに延々とハルに聞かせた。
 向かいの席に座るハルは、テーブルにひじをついて手の甲にあごをのせ、もう片方の手で酒杯をもてあそんでいる。
 半分落としたまぶたの奥の瞳はじっと酒杯に向けられたまま。
 勝手にひとりで喋っているシンの話さえ聞いているのか、怪しいところであった

 不意に、シンは両手を頭の後ろで組み身体をを反らした。

「俺、好きだなああいう娘(こ)。可愛いよね」

 遠い目をしてぽつりと呟いたシンは、突然身を乗り出すようにして、ハルに顔を近づけた。
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