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令嬢は元暗殺者に恋をする
第27章 勝負の行方
「なあ、おまえが相手にしないってなら、俺がもらっていいか?」

 ハルはちらりと視線だけを上げシンを見る。

「もらうも何も、婚約者がいるんだろう」

「いいよ別に。俺、人妻でも気にしないし」

 あっけらかんと言うシンから視線を外し、ハルは酒杯の中身を一気にあおった。
 その仕草が妙に苛立っているように感じるのは気のせいか。

「何かさ、一緒にいるだけでいいんだ。サラが楽しそうに笑ってくれるだけで嬉しいっていうか、俺にもこんな純粋な気持ちがあったんだなあって。でさ、また会う約束したんだよね」

 テーブルに頬杖をつき口許をほころばせるシンに、ハルは鼻であしらった。

「今度会うとき、サラが俺のためにお菓子を焼いてくれるって。屋敷の敷地内に自分だけしかしらない秘密の場所があるから、そこで一緒に食べようって言ってくれてさ」

 ハルは瞳を揺らし、シンから目をそらすように視線を落とした。

「サラも今はおまえに夢中のようだけど、俺がおまえのことなんて忘れさせてやるさ。人の気持ちなんて変わりやすいもの。冷たくて意地悪で無愛想なおまえよりも、優しい俺の方が好きだって。楽しいからずっと側にいたいって。そう、好きだって言ってくれた」

 俺のことを優しいって言ってくれたのも、一緒にいたいと言ったのも本当だ。それに、好きだとも言ってくれたのも。

 好きの意味合いはかなり違うが、間違ってはいない。
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