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令嬢は元暗殺者に恋をする
第28章 それぞれの思い1 ※
 歓楽街は夜にこそ、その真の姿をみせる。
 闇を彩る無数の灯りが店先に飾られ、人々が行き交い喧噪が入り乱れる。

「ねえあなた、私と遊ばない」

 不意に、呼び止められハルは眉根を険しくさせたまま振り返る。
 先ほどのシンとの飲み比べに負け、あまつさえ、醜態をさらしてしまったという苛立ちがまだおさまっていないらしい。
 けれど、苛立ちの原因がそれだけではないことを、この時のハルはまだ認めたくはなかった。

「彼にふられちゃってね。退屈してるの」

 一人の女が建物の壁に寄りかかりながら、じっとこちらを見つめていた。
 商売女というわけでもなさそうだ。

「退屈というよりも、なんか……むしゃくしゃしちゃって……ねえ、私のこと慰めてくれない?」

 たどたどしい、アルガリタ語であった。
 声をかけてきた女もこの国の者ではない。

 艶のある褐色の肌と、真っ直ぐな黒髪に黒い瞳。
 小柄な身体つき。

 おそらく、東の大陸アイザカーンの者であろう。しかし、声をかけた女はハルの容貌に息を飲んだ。というよりも、相手があまりにもきれいな顔立ちすぎて、尻込みをしてしまったという様子であった。

 さらに、女がためらったもう一つの理由は、ハルがアルガリタの人間ではないとわかったからだ。

「あなた、異国の人……? な、なんでもないわ。冗談よ。気にしないで……」
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