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令嬢は元暗殺者に恋をする
第28章 それぞれの思い1 ※
 言葉が通じないと思ったのか、女はやはり慣れないアルガリタ語で慌ててなんでもないの、というように手を振り立ち去ろうとする。しかし、去って行こうとする女の腕を咄嗟にハルはつかんで引き寄せると、そのまま、路地裏に引き込んだ。

「な……何……っ?」

「俺と遊びたくて、声をかけてきたんだろう?」

 女の黒い瞳が驚きに見開かれる。
 何故なら、ハルの口から見事なアイザカーンの言葉が淀みなく流れたからであった。

「あなた……言葉、わかるの?」

「わかるよ。だからあんたも遠慮なく自分の国の言葉で喋ればいい」

 女は一瞬、自国の懐かしい言葉を耳にし安堵の表情を浮かべる。が、すぐにハルから視線をそらして身動いだ。

「手を離して……誘っておいて悪いけど、あなた、私よりもずいぶん年下みたいだし……まだ子どもだわ」

 しかし、女を逃がさないというように、ハルは建物の壁に片手をとんと手をつき、シャツの首元を指先で緩めた。

「俺が子どもかどうか、試してみれば?」

「試すって?」

「あんたが思っている以上に俺、うまいよ」

 女は呆気にとられたように目を丸くし、次に、心底おかしいとばかりに失笑する。

「自分でそんなこと言うなんて、それこそ子どもね」

「本当のことだから」

 あしらうように鼻で嗤う女に別段気を悪くした様子も見せず、ハルは悪戯げに口許に笑みを刻みながら、女の耳元に唇を近づけ低くささやいた。

「いい思い、させてあげる」
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