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令嬢は元暗殺者に恋をする
第30章 私はハルだけのもの
「私はハルだけのものよ。だから、私のことも好きになって。私ももっとたくさんハルのことを知りたい」
ハルの背に腕を回し、その胸に顔を埋めようとしたその時であった。
部屋の扉を叩く音にサラは肩を跳ねた。
「サラ様? どうかされたのですか?」
侍女の呼びかける声にうろたえる。
「な、何でもないの!」
扉に向かってサラは答え、離れていこうとするハルに待って、とすがりつく。
「また会いに来てくれる。明日もまた」
けれど、しがみついた腕を無言で解かれ、サラは切ない表情を浮かべる。
バルコニーの手すりに手をかけたハルは、一度だけ肩越しに振り返りふっと笑う。そして、軽々と手すりを飛び越え、足音をたてることもなく夜の闇に消えてしまった。
「待って! ここ二階……」
慌てて手すりから身を乗り出して眼下を見下ろすが、ハルの姿はとうに闇にまぎれて見あたらない。と、同時に部屋の扉が開かれた。
現れた侍女が燭台を手に、眠たそうに目をこすって部屋に入ってくる。
「話し声が聞こえたようですけど」
「ひ、独り言よ」
「でも、男性の声が」
「気のせいよ。こんな夜更けにあり得ないでしょう? それも男の人の声だなんて。ね?」
サラはにこりと笑ってみせる。
侍女は首を傾げ部屋の中をぐるりと見渡した。けれど、誰の姿もないことを確認すると再びサラに視線を戻す。
「早くお休みになってくださいね。それとあまり夜風にあたってはお風邪を召しますわ」
「そうね。ちょっと、寝つけなくて……でも、もう眠るわ。気にかけてくれてありがとう」
侍女は頭を下げ部屋を退出した。
サラはふうと息を吐きだす。
危なかったわ。
緊張したせいで変な汗をかいてしまった。
もう一度ハルの姿を見つけ出そうとバルコニーの下に視線をさまよわせたが、やはり見つけ出すことはできなかった。
シン、ありがとう。
ハルが会いに来てくれたよ。
突然来て、言いたいこと言って、すぐ帰ってしまったけれど。
でも、ハルが私に会いに来てくれた。
また明日も来てくれるかな。
ハルの背に腕を回し、その胸に顔を埋めようとしたその時であった。
部屋の扉を叩く音にサラは肩を跳ねた。
「サラ様? どうかされたのですか?」
侍女の呼びかける声にうろたえる。
「な、何でもないの!」
扉に向かってサラは答え、離れていこうとするハルに待って、とすがりつく。
「また会いに来てくれる。明日もまた」
けれど、しがみついた腕を無言で解かれ、サラは切ない表情を浮かべる。
バルコニーの手すりに手をかけたハルは、一度だけ肩越しに振り返りふっと笑う。そして、軽々と手すりを飛び越え、足音をたてることもなく夜の闇に消えてしまった。
「待って! ここ二階……」
慌てて手すりから身を乗り出して眼下を見下ろすが、ハルの姿はとうに闇にまぎれて見あたらない。と、同時に部屋の扉が開かれた。
現れた侍女が燭台を手に、眠たそうに目をこすって部屋に入ってくる。
「話し声が聞こえたようですけど」
「ひ、独り言よ」
「でも、男性の声が」
「気のせいよ。こんな夜更けにあり得ないでしょう? それも男の人の声だなんて。ね?」
サラはにこりと笑ってみせる。
侍女は首を傾げ部屋の中をぐるりと見渡した。けれど、誰の姿もないことを確認すると再びサラに視線を戻す。
「早くお休みになってくださいね。それとあまり夜風にあたってはお風邪を召しますわ」
「そうね。ちょっと、寝つけなくて……でも、もう眠るわ。気にかけてくれてありがとう」
侍女は頭を下げ部屋を退出した。
サラはふうと息を吐きだす。
危なかったわ。
緊張したせいで変な汗をかいてしまった。
もう一度ハルの姿を見つけ出そうとバルコニーの下に視線をさまよわせたが、やはり見つけ出すことはできなかった。
シン、ありがとう。
ハルが会いに来てくれたよ。
突然来て、言いたいこと言って、すぐ帰ってしまったけれど。
でも、ハルが私に会いに来てくれた。
また明日も来てくれるかな。

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