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令嬢は元暗殺者に恋をする
第31章 月夜の蜜会
 文机に頬杖をつき、サラは口許を緩ませた。

 窓の向こうに広がる夜空を大きく見上げる。
 翳りのない深い藍に彩られた夜空は、澄んだハルの瞳を思わせた。

 そっと細いため息をつき眼差しを落とす。
 ハルのことを考えその姿を思い浮かべるだけで、頬が熱くなり、胸が苦しく締めつけられるように痛んだ。

 生まれて初めて恋というものを知ったサラにとって、この上もない至福の瞬間。と同時に、幸せに満たされた心によぎる不安の翳り。

 サラは頬杖をついたまま、もう一度ため息をつく。
 幸福と不安が交錯する小さな胸はまさに張り裂けんばかり。
 愛する男性(ひと)の一つ一つの動作に、何気ない一言に一喜一憂してしまう。

 それほどまでに、サラの胸のうちにはハルの存在が大きくしめていた。
 だが、果たして相手にとって自分はどういう存在であるのか。
 今の自分がハルにとって、大きな存在であるとは到底思えないということは理解しているつもりであった。

 けれど、いつかそうなれる日がくればいいと願わずにはいられない。

 きまぐれで会いに来てくれるのではなく、ハルの方から自分に会いたいと思わせなければいけない。

 わかっているけど、やっぱり無理よ。
 だって、私のほうがハルに夢中だもの。

 はあ、とまたしても深いため息をつく。
 とにかく、朝からこんな調子ゆえ、目の前に広げられた明日までに片づけなければならない宿題がまだ半分も残されていたが、気もそぞろでどうにも手をつける気がおきない。
 きっとまた家庭教師に小言を言われてしまうだろう。
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