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令嬢は元暗殺者に恋をする
第31章 月夜の蜜会
「だったら、俺を本気にさせてみなと前にも言ったはず。この俺をあんたの足元に跪かせるくらい夢中にさせてみせてよ」

 熱い吐息混じりのささやきとともに、ハルの唇がサラの白く細い首筋を這う。

「あぁ……」

 自分でも聞いたことがないような声が唇からもれてしまい、サラは慌てて口許を手で押さえ込んだ。

 信じられない。
 こんな声だすなんて、恥ずかしい。

 頭の上でくすりと笑う声が聞こえ、口許を押さえていた手を解かれる。

「可愛い声。もっと聞かせて」

「いや」

「いや? そう。なら無理矢理、鳴かせてみようかな」

 ハルの指先が滑るように胸元に落ちて──。

 だ、だめ……!

 慌ててサラはハルの手に自分の手を重ね強く押さえ込む。

「怖がらなくてもひどいことはしないよ。すぐに、俺のことを欲しいと言わせてあげる」

「私、そういうの、よくわからない!」

 サラは必死になって首を横に振る。

「教えてあげるよ。相手を欲して身体がせつない悲鳴をあげ泣き叫ぶのを。それに、気になる相手を抱きたい、好きな人に抱かれたいと思うのは当然だろう」

 抱きたいとあからさまに言われてサラは赤面する。が、突如、目を大きく開き瞳を輝かせた。
 嬉しそうに頬を薔薇色に染め、ハルの腕をがしりと強くつかみ大きく揺さぶる。

「ねえ、今気になる相手って言ったわよね。それって、やっぱり私のことを少しは好きかもってことよね? そうよね?」

 嬉しい! とサラはハルの首筋に飛びつきしがみつく。
 意表をつかれた行動に、調子が狂うとハルは眉を上げ苦笑する。

 手に入りそうで入らない。
 あと少しで堕ちると思った瞬間、かわされる。

 やれやれとため息をこぼしたハルは、抱きしめたサラの肩越し文机の上に乱雑に広げられた教科書に視線を落とし眉根を寄せた。

 ハルの様子が急変したのはその時。
 初めはこらえるように両肩を震わせていたが、しまいにはひたいに手をあて声を上げて笑い出した。

「え、何? ハルが笑ってくれた! でも、何がそんなにおかしいの? ねえ?」
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