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令嬢は元暗殺者に恋をする
第33章 ハルの過去
 確かにある意味、一種の英才教育だったかも知れないな……。

 サラは目を見開いた。
 何故なら、初めてハルが自分のことを口にしたからだ。

 膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめる。ハルの言葉を些細なことも聞き逃すまいと、息さえ止めて。

「幼い頃からたくさんのことを教え込まれた。いや、叩き込まれたといったほうが正しいかもしれないな。俺はそれに答えようと必死だった。答えなければならなかった。そうしなければ、容赦なく切り捨てられたから」

 教え込まれた?
 切り捨てられた?

「なぜ……?」

「知りたい?」

 なぜ? と問いかけるサラの疑問に、ハルはまなじりを細めて問いかける。
 知ってしまえば後悔するよ、という表情であった。

 それでもサラは大きくうなずいた。
 ハルのことなら、どんな些細なことでも知りたいと思うのは当然だ。

「ハル……?」

 緊迫した空気に息をつめる。
 ハルの身にまとう雰囲気、放たれる威圧感。
 身を切り裂かれ心までちりぢりにされてしまいそうな程の恐怖。

 時々感じてしまうハルと自分との隔たり。
 これ以上踏み込むのは危険だと、かかわってはいけないと、心のどこかで警鐘が鳴っている。

 それでも、私はハルのことが好き。
 ハルのことが知りたい。
 後悔なんてしない。
 たとえ、ハルの過去に何があったとしても、私の気持ちは少しも揺らいだりはしない。

 その自信はあった。
 真っ直ぐに見つめてくる藍色の瞳を、決してそらすまいと受け止める。しかし、次の瞬間、右腕をとられ強く引き寄せられた。

 不自然な体勢でそのままハルの胸に倒れ込む。
 ひたいに頬に、ハルの唇が落ちる。

 そして──。

 声をあげる間もなく唇に口づけをされ、サラは驚きに目を見開く。
 唇を離したハルはふっ、と悪戯な笑みを口許に浮かべた。
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