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令嬢は元暗殺者に恋をする
第4章 私があなたを守ってあげる
「眠れないわ」

 そう呟いて、サラはため息をこぼした。

 結局、体調が思わしくないと嘘をついて護衛たちを無理矢理、屋敷へと追い返し、しばらくベゼレート医師の家にお世話になることにした。

 屋敷の方も元王家専属医師のベゼレートならばと、あまりうるさくは言わないし、ここへ泊まり込むのも初めてではない。

 この場所はとても居心地がいい。
 先生は心の温かい人で和むし、テオも優しい。
 何より、今はハルの怪我が良くなるまで、側についていてあげたいと思ったから。

 サラは何度か寝返りを打ち眠る努力を試みた
 目を閉じ頭の中を空にしてみる。

 それでもやはり無理なのだということに気づき、とうとう眠ることをあきらめた。

 ベッドからおり、肩掛けを羽織って窓際へと歩み寄る。

 窓の向こう、夜の海に揺蕩うは傾きかけた月。
 深い夜の空に浮かぶ美しい月に魅せられ、サラは細いため息をこぼす。

 そういえば、ハルの瞳も晴れ渡った、そう、ちょうどこんな夜空のように美しい色をしていたことを思い出す。

 本当に心の汚れた人が、あんなにきれいで澄んだ瞳なんてしない。
 彼は本当は悪い人ではない。

 ぼんやりとそんなことを思い巡らせ、しばし空を見上げていたサラであったが、おもむろに身をひるがえし部屋を出た。

 向かった先はハルの部屋。
 そこで、足を止め扉をそっと押してそろりと中をのぞき込む。

 片膝を抱えてベッドに座り、膝の上に乗せた腕にひたいを添えるハルの姿。
 扉が開く気配を察したハルは顔を傾け視線をこちらに向けた。

 案の定、やはり眠っていなかった。
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