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令嬢は元暗殺者に恋をする
第36章 知りたい
「何を聞かされた?」

「何も……」

 聞いていないと、ハルの目を見つめたままサラは頼りなく首を振った。

「口を割らせるのは簡単だよ」

 ハルの目が細められる。

「どうやって……」

「どうやってと聞く?」

 口許に薄い笑いを刻みながらハルの手がすっと頬へと伸びる。
 恐ろしさに身がすくみそうになった。

「ど、どうしてそんな怖いこと言うの。これじゃ、まるで……」

「まるで?」

「ハルが……」

「俺が?」

 サラは口をきつく引き結んだ。
 口を開けば余計なことを喋ってしまいそうだったから。
 ハルの怖さを決して忘れていたわけではない。

 賊に襲われた子どもを助けるためとはいえ、ハルはカーナの森で二十人近くもいた賊をひとり残らずその手で全員殺してしまったのだ。
 自分の頬に触れているこの手で。

 初めて出会ったあの森で、本気だったのかそうでないのかわからないが、ハルは私のことも殺そうとした。
 それでも、私はハルに出会って一瞬にして好きになってしまった。
 今だってハルを好きだという気持ちは変わらない。

「三年前のことを聞かされたんだな。あんたの家庭教師に」

 サラの顔に絶望的なものが浮かび上がった。
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