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令嬢は元暗殺者に恋をする
第37章 それでも、あなたが好き
「どこまで知ってしまったの?」

 ハルの口調がまた変わった。

 問いかける声も、頬をなでてくれる手も優しく、口許には微笑みさえ浮かべているのに、なのに、自分を見据えるその藍色の瞳だけは冷たく凍えるようで戦慄を覚えた。
 頬に触れているハルの手が、いつ首にかかるのではないかと怯えた。

「私……」

 何も答えられない。
 もはや知らない、何も聞いてないと言ったところでハルには通用しないだろう。
 それでもサラは知らないと、ただ首を振るだけであった。

「そして、あんたはその時の事件にかかわっていたのが、俺だと思っている」

「それは……っ」

 突如、ハルが片膝を立てた。
 サラの身体がすとんとハルの腰の位置に滑り落ち、二人の距離がいっそう近くなる。

 サラは動揺してうつむき視線をハルの胸元のあたりに落とした。
 身体の震えを押さえつけようと、膝に置いた両手をきつく握りしめ唇をきつく噛みしめる。

 けれど、こんな体勢で、それも心臓の音まで聞こえてしまうのではというほどの間近の距離で、相手に自分が怯えていることを悟られないようにするのは無理なことであった。

「どうして、そんなに震えるの? 俺が何かすると恐れている?」

 頬にあてられたハルの手、薬指が軽く添えられるようにあごにかかり、顔を上げさせられた。

「怖い?」

 ハルの静かな藍色の瞳にのぞき込まれ、絡めとられる。
 目をそらすことができない。

「唇……」

 ハルの親指が唇に触れた。

「そんなにきつく噛んだら切れてしまうよ」

 そこでようやくサラは引き結んでいた唇を開け、つめていた息をもらした。

「こんなに青ざめた顔をして震えて。怖がらせるつもりはなかった。もう、これ以上は何も聞かない。だけど、これだけは約束してくれるね。家庭教師に聞かされたことは絶対に他の誰にも言ってはいけないよ。いいね」

 優しく諭すようなハルの言葉にサラは静かにうなずいた。が、すぐにはっとなり口許を手で押さえる。
 何も知らない、何も聞いてないと言ったのに、うっかりうなずいてしまった。
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