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令嬢は元暗殺者に恋をする
第38章 レザンの暗殺者
ハルの語ってくれた組織の恐ろしがどれほどのものか知らないサラにとって、それはあまりにも現実味のないものであった。
「今でも悪夢(ゆめ)をみるよ。辺り一面を赤黒く染め上げる血の海にたたずむ己の姿。手に握られているのは一振りの血塗られた剣。その刀身は禍々しい夜の闇をまとった漆黒の色。足下に横たわる無数の屍は自分がこの手で殺め続けてきた罪なき人たち。それらを平然と見下ろし、漂う血の臭気に眉ひとつさえ動かさず、薄く笑っている自分の顔……」
何故、笑っている。
どうして、罪の意識を感じない。
何度、夢の中の自分に問いかけただろうか。
違う……本当は気が狂いそうで、泣き叫びたかった。
だが、あまりにも流しすぎた血はもはや己の感覚をも狂わせた。
罪の意識に心を痛めながらも、いつしか甘美な血の匂いに溺れ陶酔し、心の至るところまで浸食され、その痛みがすでに何であったかすら思い出すこともできなくなってしまうことも。
組織から抜けたからといって、都合良く忘れてしまおうなどとは虫のいい話だ。
記憶の片隅に封印した忌まわしい過去。
いまだ悪夢となってよみがえり、己を打ちのめすまでに苦しめ苛む記憶。
胸のうちを静かにあかすハルの言葉を、サラは微動だにせず聞いていた。
「こんな俺でもいいのか? あんたは恐ろしくないのか?」
「何度も言わせないで。どうしてそんなことを聞くの? それに……」
サラはハルの手をとり、自分の頬にあてた。
「ハルの瞳はとても澄んでいてきれいな瞳よ。それに、ハルはとても優しい人。ほんとうは汚れのない心を持った人だと私は思ってる」
ずっと、苦しんできたのね。
そんなに心を痛めないで。
これからは私がハルの側についていてあげる。
悪夢にうなされたら私がハルの手を握りしめてあげる。
何だか初めて出会った時のことを思い出すわ。
怪我の痛みで苦しんでいるハルの手を、こうして握ってあげたことを。
「今でも悪夢(ゆめ)をみるよ。辺り一面を赤黒く染め上げる血の海にたたずむ己の姿。手に握られているのは一振りの血塗られた剣。その刀身は禍々しい夜の闇をまとった漆黒の色。足下に横たわる無数の屍は自分がこの手で殺め続けてきた罪なき人たち。それらを平然と見下ろし、漂う血の臭気に眉ひとつさえ動かさず、薄く笑っている自分の顔……」
何故、笑っている。
どうして、罪の意識を感じない。
何度、夢の中の自分に問いかけただろうか。
違う……本当は気が狂いそうで、泣き叫びたかった。
だが、あまりにも流しすぎた血はもはや己の感覚をも狂わせた。
罪の意識に心を痛めながらも、いつしか甘美な血の匂いに溺れ陶酔し、心の至るところまで浸食され、その痛みがすでに何であったかすら思い出すこともできなくなってしまうことも。
組織から抜けたからといって、都合良く忘れてしまおうなどとは虫のいい話だ。
記憶の片隅に封印した忌まわしい過去。
いまだ悪夢となってよみがえり、己を打ちのめすまでに苦しめ苛む記憶。
胸のうちを静かにあかすハルの言葉を、サラは微動だにせず聞いていた。
「こんな俺でもいいのか? あんたは恐ろしくないのか?」
「何度も言わせないで。どうしてそんなことを聞くの? それに……」
サラはハルの手をとり、自分の頬にあてた。
「ハルの瞳はとても澄んでいてきれいな瞳よ。それに、ハルはとても優しい人。ほんとうは汚れのない心を持った人だと私は思ってる」
ずっと、苦しんできたのね。
そんなに心を痛めないで。
これからは私がハルの側についていてあげる。
悪夢にうなされたら私がハルの手を握りしめてあげる。
何だか初めて出会った時のことを思い出すわ。
怪我の痛みで苦しんでいるハルの手を、こうして握ってあげたことを。

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