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令嬢は元暗殺者に恋をする
第39章 近づいていく二人の距離
 月明かりだけが差し込む暗闇の中、その深い真紅の飾り紐は見ようによっては黒にも見えた。

 けれどじっと目を凝らして見れば、やはりそれは、まごうことなき真紅色。

 真紅に金糸。
 その色は特別な意味がある。
 それは、この国のアリシア王女直属の兵や側近にのみ許された色だから。
 異国の、それもここよりずっと遠いレザンの暗殺者として生きてきたハルが何故という疑問が頭をもたげた。

 私はまだ、ハルのほんの一部の真実に触れただけにしかすぎないのだわ。

 しかし、サラの考えはそこで中断されてしまった。
 頬に触れたハルの手にぴくりと肩を震わせ、ハルの剣から視線を上げる。

「まだ不安?」

 おそらく自分がこの真紅の飾り紐に対して疑問を抱いていることをハルならば気づいているはず。

 けれど、そのことについて口にすることはなかった。
 ハルの瞳が今はまだ語れないと言っているような気がしたから。
 サラは違うの、と首を振った。

 大切にする、守ってくれると言ってくれたハルを、私は信じてついていかなければならない。

 きっと、そのことについては時がきたらすべてを語ってくれるだろう。
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