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令嬢は元暗殺者に恋をする
第40章 しるし
「ま……」

 口許にあてた手がそうさせてしまったのか、待って、と声を上げようとして反射的に言葉を飲み込んでしまう。

 ハルが声を出さないでというように、薄く笑みながら唇に人差し指をたてる仕草をする。

 腿の内側をなぞるようにハルの唇が這う。
 そくりとした感覚が身体中を走りぴくりと背筋が震えた。
 反応してしまったという羞恥心に顔を赤くする。

 ハルの唇が腿の内側一点でとまり、ちゅっと口づけをされる。
 その部分から急速に熱を感じ、瞬く間に全身に広がっていく。

「少し痛いよ。いい?」

 サラは両手を口許にあてたまま、わけもわからずうなずいた。
 頭の中が真っ白で、何も考えることができなかった。
 ただうなずくことしかできなかった。
 軽く噛まれた刹那、サラは一瞬だけ目を瞠らせ、きつくまぶたを閉じた。

「……っ!」

 いたい……。

 胸元の時よりもきつく吸われ、ちくんとした痛みが肌に走り思わず身をよじる。
 こらえきれずもれてしまった声は、押さえた手の中で飲み込まれていく。

 痛くて。
 熱くて。
 せつない。

「痛かった?」

 その声にようやくサラは我に返った。
 いまだ口許をおおっていた手をハルによって解かれ、こめかみのあたりに口づけをされる。

「跡、そうかんたんには消えないよ。誰にも見られないように気をつけて」

「おやすみサラ。また明日」

 ハルの足音が遠のいていく。
 見送りたいと思ったのにすっかり力が抜けてしまい、ベッドから身を起こすことができなかった。

 窓が開いた瞬間、ひやりとした夜気が部屋に流れ込む。
 ハルの気配が部屋から消えた。

「は……ぁ……」

 肌に残された甘く疼くような痛みにサラは震える吐息をもらす。
 まだハルの唇の感触が残っているようで……。
 胸に手をあて、サラはまぶたを閉じた。

 私、眠れそうにない。
 いいえ……。

 ハルが残していってくれた感触をすべて拾い、消えてしまうまで感じていたかった。
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