この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
令嬢は元暗殺者に恋をする
第44章 ハルとファルク
翌日、久方ぶりにトランティア家にその人物が訪れた。
その人物とはサラの婚約者、ファルク・フィル・ゼクスであった。
ファルクがこの屋敷に姿を現すのは、実にあの夜会以来のことであった。
トランティアの屋敷に足を踏み入れるなり、ファルクは出迎えた使用人たちひとりひとりに気さくに挨拶を交わし、爽やかな笑顔を振りまいた。
「ファルク様がおみえになったようよ」
「まあ、ファルク様が!」
年若い侍女たちは仕事の手をとめ、みないっせいにファルクの姿を一目見ようとわらわらと集まってきた。
「ところで、私の可愛い婚約者殿はどこにいるのだろうか? お部屋かな」
ファルクは大仰に芝居がかった仕草で両手を広げ、婚約者の姿を探すように視線をきょろきょろとさせる。
侍女たちは揃って顔を見合わせた。
せっかく、ファルク様がいらしたというのに、婚約者であるサラ様は何故この場に現れないのかという非難の混じった目だ。
「あの……サラ様でしたら先ほどお庭に向かわれましたわ」
「庭?」
「はい、薔薇園の方に走っていくのを見かけました」
「薔薇園……」
と、呟くファルクの眉間に深いしわが刻まれたのを見た侍女たちは、怪訝そうに首を傾げる。
数日前の夜会の日、ファルクがその薔薇園でシンに剣で完膚なきにまでに打ち負かされたという屈辱を味わわされたことを侍女たちは知らない。
当然ながら、ファルクもそのことを誰にも話してはいなかった。
けれど、ファルクが不愉快げに眉をひそめたのはほんの一瞬のこと。
その人物とはサラの婚約者、ファルク・フィル・ゼクスであった。
ファルクがこの屋敷に姿を現すのは、実にあの夜会以来のことであった。
トランティアの屋敷に足を踏み入れるなり、ファルクは出迎えた使用人たちひとりひとりに気さくに挨拶を交わし、爽やかな笑顔を振りまいた。
「ファルク様がおみえになったようよ」
「まあ、ファルク様が!」
年若い侍女たちは仕事の手をとめ、みないっせいにファルクの姿を一目見ようとわらわらと集まってきた。
「ところで、私の可愛い婚約者殿はどこにいるのだろうか? お部屋かな」
ファルクは大仰に芝居がかった仕草で両手を広げ、婚約者の姿を探すように視線をきょろきょろとさせる。
侍女たちは揃って顔を見合わせた。
せっかく、ファルク様がいらしたというのに、婚約者であるサラ様は何故この場に現れないのかという非難の混じった目だ。
「あの……サラ様でしたら先ほどお庭に向かわれましたわ」
「庭?」
「はい、薔薇園の方に走っていくのを見かけました」
「薔薇園……」
と、呟くファルクの眉間に深いしわが刻まれたのを見た侍女たちは、怪訝そうに首を傾げる。
数日前の夜会の日、ファルクがその薔薇園でシンに剣で完膚なきにまでに打ち負かされたという屈辱を味わわされたことを侍女たちは知らない。
当然ながら、ファルクもそのことを誰にも話してはいなかった。
けれど、ファルクが不愉快げに眉をひそめたのはほんの一瞬のこと。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


