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令嬢は元暗殺者に恋をする
第44章 ハルとファルク
「申し訳ございません。ファルク様がお見えになるとは知らなかったもので」

 わかっていたら、引き止めたのですが……と申し訳なさそうにうなだれる彼女たちに、いいのだよ、とファルクは人好きのする笑顔をたたえた。

「君たちのせいではないさ。突然やってきた私がいけないのだから」

 侍女たちはほっと息をもらしつつも、ファルクの笑顔に心をとろけさせ、ぽっと頬を赤らめる。

「今すぐ、サラ様をお呼びしてきますわ。ファルク様、お待ちになってくださいませ」

 サラを呼びに行こうと背を向けたその侍女を、ファルクはいや、といって引き止める。

「私が直接、薔薇園に出向こう」

「ファルク様がですが?」

「突然、行って驚かせてあげようと思ってね。それに」

 ファルクは窓の外を見上げ、まぶしそうに目をすがめた。
 雲ひとつない清々しいほどの真っ青な空。

「今日は天気もいいことだし、少し彼女と庭を散歩しながら話でもしようかと思ってね」

「まあ……それはきっとサラ様もお喜びになりますわ」

 ファルクのその言葉に、しばらく二人っきりになりたいのだと侍女たちは悟ったようだ。

「では行ってみるとしよう」

 じゃあ、と軽く手をあげ侍女たちに背を向けたファルクの顔に、今まで浮かべていたにこやかな笑みはすっかりと消えていた。

「ああ……いつ見てもファルク様は素敵だわ」

「凜々しくて男らしくて」

「それでいてお優しくて」

「物腰も穏やかで落ち着いていて」

「大人の男の魅力がにじみでてるのよね」

「早くこの屋敷に来てくださらないかしら。待ち遠しいわ」

「もうすぐよ。もうすぐ、サラ様とご結婚されるのだから」

 ファルクの本性を知らない侍女たちは、胸に手をあて、去って行くファルクの逞しい背中を熱のこもった目でいつまでも見送っていた。
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