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令嬢は元暗殺者に恋をする
第4章 私があなたを守ってあげる
 そもそも彼女は貴族のお嬢様。
 ここでの生活は知らないが、屋敷に戻れば身の回りのことはすべて使用人が世話してくれる。

 そんな彼女に料理の腕を期待するほうが間違っていた。
 いや、そもそも最初から期待などしてなかったが。

 サラはハルの手から器を受け取り、脇へそれも手の届かない場所へよけた。

「……あれは身体に良くないわ」

「においだけで気分が滅入りそうだ」

「でもね、もっといいものがあるの」

 サラは足元に置いてあった籐の篭からみずみずしい水蜜桃を取り出し、果物用のナイフを手に桃の皮を剥き始めた。が、案の定、サラの手つきは危なっかしい。
 皮を剥くというよりは、肝心の実を削っているという感じだ。

 それでも、いびつながらも、ようやく時間をかけて皮を剥き終え茶色く変色した桃が果汁でべたべたになったサラの手から滑っていく。

 二人は無言で転がっていく桃を目で追う。
 呆然としたサラと、唖然とした表情のハルが言葉もなく見つめ合う。

 けれど、落ちて正解だ。
 あんな手垢にまみれた桃など、口にもしたくない。

「大丈夫。まだあるから……」

 気を取り直し、サラは新たに篭から桃を取り出すと、こりずにまた皮を剥こうと試みる。

「もういい! よこせっ!」

 ぎこちないサラの手から桃とナイフを奪い、ハルは器用に桃の皮を剥き始めた。
 鮮やかな手つきにサラは目を輝かせ、手元をのぞき込んでくる。

 ハルは手の中で食べやすい大きさに切り分けた桃をサラに差し出した。
 サラはそれをつまみ口に放り込む。

「おいしい!」

 満面の笑みを浮かべるサラの表情を見て、ハルも自然と笑みをこぼす。

「あ!」

 サラは身を乗り出し顔を近づけてきた。

「何?」

「ねえ、今笑ったでしょう。笑ったわよね? とっても素敵な笑顔だったよ。ねえ、そうやっていつも笑っていればいいのに。私、ハルの笑顔大好きよ!」
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