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令嬢は元暗殺者に恋をする
第48章 心を見せて
 逃げるつもりなんてないわ。
 拒んだりもしない。

 震えるサラの指先がハルの手に触れた。そして、こくりと喉を鳴らし、ハルの手にしっかりと自分の手を重ねる。

 もう後へは引けない。

 ふっと、視線をそらしたハルは窓越しに空を見上げた。

「雨が止むまでじゅうぶん時間はあるな」

「時間……?」

「痛みの先にある場所へ連れていくには、時間はじゅうぶんあるってこと」

 視線を戻したハルの藍色の瞳に捕らえられ、ぞくりと背筋に震えが走った。

 反射的に逃げだそうとして、一歩、足を引いたところを、腰に腕を回されきつく引き寄せられる。ハルの指が食い込んで痛いくらいであった。

 ハルの身にまとう空気が一変したのが感じられた。
 それは男の人の怖さ。

「痛みの先って、私よくわからないけど……どうなってしまうの……?」

 どこか不敵な笑みを刻み、ハルが顔を近づけてくる。軽く唇をついばむようなキスを繰り返し、そして、ハルの唇が首筋に触れた。

「教えてあげる」

 まるでそこが弱い場所だということを知っているかのように、首筋に唇が触れたまま低い声でささやかれ、サラはふるっと身体を震わせた。

 おかしな声がでそうになってしまい、慌てて口許を手で押さえる。

「サラの方から俺を求めてきてくれた。驚いたけど、こんなに嬉しいことはないよ」

 突然、足が床から離れ抱き上げられる。
 ハルの腕に抱かれたまま奥の寝室へと連れられていく。
 部屋の隅に置かれたベッドを見た瞬間、じわりと目の縁に涙をにじませた。

 抱かれる決心はしたけれど。
 怖くなんかないと思ったけれど。
 それでも……震えがとまらないのは許して。

 ハルの胸に、こつりとひたいを寄せ、サラは唇をきつく噛みしめた。
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