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令嬢は元暗殺者に恋をする
第51章 何故
絡んだ互いの指先が、離れたくない、離れるのが惜しいとばかりにゆっくりと解かれていく。
最後の指が離れた瞬間、不意にハルの心の隅に得たいの知れない黒い影が差したのを感じた。
──何故、この手を離してしまったのだろうか。
恥ずかしそうに頬を赤らめたまま、衣服の裾をふわりとひるがえし、軽やかな足どりで屋敷へと向かって歩き出すサラの背に。
「サラ」
と、思わず呼び止めてしまった。
すぐにサラが立ち止まり振り返る。
──何故、今この場で彼女を連れ去ろうと決心しなかったのだろうか。
もし、サラが連れていってと口にしたら、俺はそうしただろうか。
大切な人ほど手放してはいけないと、知っていたはずだったのに。
なのに。
──何故、同じ過ちを繰り返してしまったのだろうか。
「ハル、今日はありがとう:」
にこりと無邪気な笑顔をこぼし、サラがまた明日ね、と小さく手を振り去って行く。
サラ、と伸ばしかけた手がそのまま虚空でとまる。
まだ間に合う。
まだ引き止められる。
まだ……。
今すぐサラの元に駈け寄り、その手をつかんで連れ去っていこう。
むしろ、サラ自身だってそれを望んでいる。
なのに、足が一歩も動かないのは何故だろうか。
サラの姿が徐々に遠ざかっていく。そして、その小さな姿が咲き誇る薔薇の影に隠れ消えてしまっても、ハルはしばらくそこから動くこともできず、その場に立ちつくした。
最後の指が離れた瞬間、不意にハルの心の隅に得たいの知れない黒い影が差したのを感じた。
──何故、この手を離してしまったのだろうか。
恥ずかしそうに頬を赤らめたまま、衣服の裾をふわりとひるがえし、軽やかな足どりで屋敷へと向かって歩き出すサラの背に。
「サラ」
と、思わず呼び止めてしまった。
すぐにサラが立ち止まり振り返る。
──何故、今この場で彼女を連れ去ろうと決心しなかったのだろうか。
もし、サラが連れていってと口にしたら、俺はそうしただろうか。
大切な人ほど手放してはいけないと、知っていたはずだったのに。
なのに。
──何故、同じ過ちを繰り返してしまったのだろうか。
「ハル、今日はありがとう:」
にこりと無邪気な笑顔をこぼし、サラがまた明日ね、と小さく手を振り去って行く。
サラ、と伸ばしかけた手がそのまま虚空でとまる。
まだ間に合う。
まだ引き止められる。
まだ……。
今すぐサラの元に駈け寄り、その手をつかんで連れ去っていこう。
むしろ、サラ自身だってそれを望んでいる。
なのに、足が一歩も動かないのは何故だろうか。
サラの姿が徐々に遠ざかっていく。そして、その小さな姿が咲き誇る薔薇の影に隠れ消えてしまっても、ハルはしばらくそこから動くこともできず、その場に立ちつくした。

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