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令嬢は元暗殺者に恋をする
第51章 何故
 トランティアの屋敷を出たハルは一台の馬車が、屋敷から少し離れた場所に止めてあるのに気づき眉をひそめる。
 馬車の中に人が乗っている気配はない。
 ただひとり、留守をあずかっている御者台の男が退屈そうに大あくびを何度も繰り返してはうつらうつらとしていた。

 馬車に飾られた紋章はゼクス家のもの。
 サラの婚約者であるゼクス家の馬車がトランティア家に訪れても別に不思議なことではない。
 けれど、すでにもう遅い時間。
 それも、何故、屋敷の敷地から離れた場所に、それもまるで人目を忍ぶように止めているのか。

 不安という小さなしずくが静かな水面に落ち波紋をつくるように、胸に暗い影が広がっていく。
 それは不吉な予感。

 直感は鋭いほうだ。説明抜きの勘は侮れないし、その予感は今までたいがいあたることが多かった。
 それによって身に降りかかる危険を回避できたことも何度かあった。

 ハルは視線を落とし強く手を握りしめた。
 ならば何故、先ほどの不安を曖昧にせず、サラを引き止めず屋敷へ帰してしまったのか。

 別れ際、自分に向けたサラの無邪気な笑顔が脳裏によみがえる。
 立ち止まり、ハルはトランティア家の屋敷を大きく振り仰いだ。

 サラ……!

 今来た道を戻るのももどかしいとばかりに、ハルはゼクス家の馬車に向かって駆け出した。
 居眠りをしている御者台の男は、ハルが近づいたことにさえ気づかない。
 身軽な動作で馬車の屋根に登ると、そこから高く跳躍し屋敷の壁を超えた。

 わずかな馬車の揺れに気づいた御者台の男は、うん? と寝ぼけまなこで背後を振り返る。が、すでにハルの姿は壁の向こう。

 気のせいかと男は視線を元にもどし、再びこくりこくりと首を上下に振り始めた。
 結局、覚悟が足りなかったのは自分の方だったということに。

 今さら気づくとは。
 己の不甲斐なさを悔いる羽目になろうとは。
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