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令嬢は元暗殺者に恋をする
第5章 行かないで ※
 怯えの交じった表情を浮かべるサラの様子を愉しむように、そうして、唇にくわえた紐をゆっくりと器用に引く。

 するりと、サラの衣服が両腕から滑り、まだ膨らみきっていない幼い胸がこぼれた。

 慌ててサラは露わになった上半身を手で覆い隠そうとしたが、それよりも早くハルの手によって両腕を押さえ込まれてしまう。

「やめて……どうして、意地悪するの……」

「意地悪? 本当に嫌なら、俺の手を振り払えばいいだろう? 大声を出して助けを求めればいい」

 違うか? とハルは喉の奥で含み嗤った。

 確かに、その通りだ。
 別に強引に押さえつけられているわけでもなく、無理を強いられているわけでもない。
 ただ、サラ自身がハルを拒まないだけである。

 嫌だと思いながらも、心の奥のどこかで彼の危険な誘惑に身を委ねてしまいたいと思っている。
 そんな自分がいた。

 ハルの唇が胸元に寄せられ口づけされる。
 サラはきつく目を閉じた。目の縁に涙がたまる。

「いや……」

 けれど、いやだという抵抗の言葉に説得力はない。

「ほんとうに、いや?」

 ハルはふっと笑い、腕の中で半ば放心状態となったサラを軽々と抱き上げ、ベッドの上に横たえる。柔らかいベッドに沈むサラの上に覆い被さるようにしてハルは両手をつく。

 垂れた前髪から、妖しいまでに熱を帯びた藍の瞳がサラを見つめる。
 相手を捕らえ、捕らえたなら決して逃さない危険で妖しい瞳。
 一度捕らわれたなら、もう逃げられない。

 サラのまなじりから、たまっていた涙が一筋こぼれ落ちる。

「今頃になって、俺を好きだと言ったことを後悔したか? 俺が怖くなったか?」

 頬を塗らすサラの涙をハルの指先が拭いとる。

「泣くにはまだ早いだろう?」

 それはまさに獲物を狩る瞳。
 途端、ハルの全身を包む空気が一変する。

「ま、待って……っ!」

「こんな俺を、あんたは好きなんだろう?」

「ハルのことを好きって言ったのは嘘じゃない! でも、ハルは私のこと好きでもなんでもないのでしょう? なのに……どうして……」

「好きでなくても抱けるんだよ」
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