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令嬢は元暗殺者に恋をする
第51章 何故
「この間もそうだけれど、こんな時間に部屋に来るなんて常識外れだわ! 帰って!」

「まあまあ」

「いいから帰って……帰りなさい!」

 ああ、うるさいとばかりにファルクは耳を押さえ、そして、にやりと笑ってサラを見つめる。

「それはそうと、昼間知らない男と薔薇園で会っていたね。夜会の時に連れ歩いていたのとは違う男。あの後、どこに行ったのかな?」

 背筋が震えた。
 そうだった。
 この男に、薔薇園でハルと一緒にいたところを見られてしまったのだ。

「恋人かい? ずいぶんと細腰のきれいな男の子だったね。この間の夜会で見た男といい、あなたはああいう軟弱そうな男が好みなのかい?」

 その見た目軟弱そうに見えるシンに、あっけなく剣で打ちのめされたということをすっかりと忘れているのか、いまだ認めたくないのか。

「そういえば、侍女たちから聞いたよ。夜中にあなたの部屋から誰かと会話をしている声が聞こえたと。もしかして、その男を部屋に呼んで会っていたのかい? 部屋で何をしていたのかな?」

「あなたには関係ないでしょう」

 サラはベッドから降り、ファルクと距離をとったまま少しずつ扉の方へと向かう。
 部屋を抜ける扉は一カ所だけ、それもファルクの背後だ。
 ファルクの側を抜けない限り、部屋の外へ出ることはかなわない。

「あなたは男をたぶらかす悪い娘だ。それとも、悪い男の甘い言葉にすぐ騙されてしまう軽率な娘かな?」

「早く出ていって!」

 しかし、ファルクはサラの言葉を聞いていない。

「まあ、男に免疫のないあなたが騙されてしまうのも仕方がないだろう。だけど、私という婚約者がいながら、他の男に簡単についていってしまうあなたも悪い」

 ファルクはぺろりと舌で唇を舐めた。

「そういう悪い子には、お仕置きをしなければならないようだね」
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