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令嬢は元暗殺者に恋をする
第52章 薔薇の棘
力が入らない。
動けない。
ふと、サラの指先にそれが触れた。
机から転がり落ちた、一輪挿しに差していた一本のしおれかけた薔薇。
数日前の夜会の日、シンがハルと会わせてあげるから、だからもう泣かないでと約束にくれたもの。
サラは指先を動かし、落ちた薔薇を手にする。
「ついつい、本気になってしまったではないか」
目の前にしゃがみ込んだファルクの手に頬をざらりとなでられ、あごを強くつかまれる。
「痣ができてしまうかもしれないね。だけど、決して私に叩かれたとみなには言ってはいけないよ。自分で転んだと言うのだよ。いいね」
「……」
「わかったね?」
返事をしないサラの態度に、ファルクは眉根を険しく寄せた。
「この私がわかったかと聞いているのだ! どうして、答えられない!」
語気を強め、ファルクの手が容赦なく喉元を押さえ込むようにしてあごをつかみ、ぎりぎりと締め上げてくる。
気道を圧迫され、苦しさにサラは喘ぎ目に涙をためる。
押さえつけられたファルクの手を退けようとしたいのに、手を持ち上げることもできなかった。
叩かれた頬がじんと痛む。
頭がくらくらとして、意識が混濁する。
返事をしなかったわけではない、声がでなかったのだ。
しきりに目の前の男が凄まじい形相で自分を怒鳴りつけているが、何を言っているのかさえ耳に入らなかった。
助けて、ハル……。
もし、この場で意識を失ってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか。
おそらくこの男は……。
それ以上のことを考えるのが恐ろしかった。
でも、もう………動けない。
ごめんなさい、ハル。
ごめんね。
私、最初の男性(ひと)がハルでほんとうによかった。
もはや、抗う気力さえもなく、サラのまぶたがゆっくりと落ちていこうとしたその時。
朦朧とする意識の中、ちくりとした痛みが指先に走り身体が反応する。
落ちかけた意識がその痛みによって現実に引き戻される。
サラはまぶたを震わせ、ゆっくりと目を開けた。
指先に痛みを与えたそれは、握っていた薔薇の棘であった。
シン──。
動けない。
ふと、サラの指先にそれが触れた。
机から転がり落ちた、一輪挿しに差していた一本のしおれかけた薔薇。
数日前の夜会の日、シンがハルと会わせてあげるから、だからもう泣かないでと約束にくれたもの。
サラは指先を動かし、落ちた薔薇を手にする。
「ついつい、本気になってしまったではないか」
目の前にしゃがみ込んだファルクの手に頬をざらりとなでられ、あごを強くつかまれる。
「痣ができてしまうかもしれないね。だけど、決して私に叩かれたとみなには言ってはいけないよ。自分で転んだと言うのだよ。いいね」
「……」
「わかったね?」
返事をしないサラの態度に、ファルクは眉根を険しく寄せた。
「この私がわかったかと聞いているのだ! どうして、答えられない!」
語気を強め、ファルクの手が容赦なく喉元を押さえ込むようにしてあごをつかみ、ぎりぎりと締め上げてくる。
気道を圧迫され、苦しさにサラは喘ぎ目に涙をためる。
押さえつけられたファルクの手を退けようとしたいのに、手を持ち上げることもできなかった。
叩かれた頬がじんと痛む。
頭がくらくらとして、意識が混濁する。
返事をしなかったわけではない、声がでなかったのだ。
しきりに目の前の男が凄まじい形相で自分を怒鳴りつけているが、何を言っているのかさえ耳に入らなかった。
助けて、ハル……。
もし、この場で意識を失ってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか。
おそらくこの男は……。
それ以上のことを考えるのが恐ろしかった。
でも、もう………動けない。
ごめんなさい、ハル。
ごめんね。
私、最初の男性(ひと)がハルでほんとうによかった。
もはや、抗う気力さえもなく、サラのまぶたがゆっくりと落ちていこうとしたその時。
朦朧とする意識の中、ちくりとした痛みが指先に走り身体が反応する。
落ちかけた意識がその痛みによって現実に引き戻される。
サラはまぶたを震わせ、ゆっくりと目を開けた。
指先に痛みを与えたそれは、握っていた薔薇の棘であった。
シン──。

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