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令嬢は元暗殺者に恋をする
第55章 会いたかった
「あの、先ほどファルク様がお帰りに……何だか様子がおかしかったようなので、気になって……サラ様? もうお休みになられたのですか? サラ様、入ってもよろしいですか?」

 失礼します、と遠慮がちの声と同時に、かちゃりと音をたて扉の把手が動いた。
 来てはきてはだめ、と答えるサラの声は弱々しく、扉の向こうにいる侍女には届かない。

 静かにゆっくりと扉が開く音。
 このままではハルの存在がばれてしまうと、サラはおろおろとした顔でハルを見上げる。

 ハルは静かにまぶたを半分伏せた。
 その顔に焦りも動揺もなく、むしろ落ち着いていた。

「侍女に見つかってしまうわ。ハル、お願い隠れて」

「いや……」

 ファルクがここへ来たことを侍女は知っている。
 ここで、顔を腫らせ、服を引き裂かれぼろぼろとなったサラの姿を見られてしまっては、たとえ、婚約者の仕業だとしても、彼女に悪い噂がたってしまう。
 それこそ、侍女たちの噂話の餌食となってしまうだろう。

 そんなことはさせない。
 それだけは避けなければならない。しかし、ハルは苦笑いを浮かべた。

 もっとも、この状況を見られては、俺がやったと思われても仕方がないか。
 どちらにしても。

「ハル!」

「口止めと、少しばかり彼女を利用させてもらう」

「何をするの……?」

 不安そうな顔で見上げるサラの髪をなで、大丈夫だからと、安心させるようにハルは微笑んだ。

「彼女に危害を加えるつもりはないよ。だから、これから俺のすることに驚かないで、ここでおとなしく待っていて。いいね?」

 そして、ハルがとった行動は──。

 素早くベッドからおりたハルは、短剣を手に、今まさに顔をのぞかせ部屋に入ろうとしている侍女の元へ足音もたてず素早く動いた。
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