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令嬢は元暗殺者に恋をする
第55章 会いたかった
 サラの笑みに偽りはなく、無理して笑っている様子はない。
 それがむしろ痛々しく感じられた。

「何故……」

 何故、そうやって笑える。
 こんな目にあって、どうして笑おうとする。
 何故、すぐに助けに来なかったのだと泣いて俺を責めない。
 何故、あの時、自分を連れていってくれなかったのかと、俺をなじらない。
 あの時、屋敷には帰さず、ためらわずにサラを連れていってしまえば、こんなむごい目にあうこともなかった。

 ハルはゆっくりと首を振った。

 わかっている。
 彼女はそういう娘ではない。
 決して俺を責めるようなことは言わない。
 いつだって、サラは俺に笑顔を向けてくれた。どんな時でも眩しいくらいの笑顔を。

「だって、ハルが来てくれたのだもの。会いたいと思ったらハルはちゃんと私の前に現れてくれた……っ」

 不意にサラは顔をしかめ頬に手をあてる。
 切れた口の中の傷が痛んだのだろう。
 ハルはそっとサラの口許の血を親指で拭いとる。

「傷の手当てをしないと。それから服を……」

 その時であった。

「サラ様……?」

 扉の向こうでそっと呼びかける侍女の声に、サラはびくりと肩を跳ね上げ顔を強ばらせた。
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