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令嬢は元暗殺者に恋をする
第57章 サラを手放さない
「もう、何も言わなくてもいい」

 すべては、サラを守ることができなかった自分のせいなのだから。

「私、大丈夫だから。だから……」

 躊躇する素振りを見せるサラの言葉の先を読み取る。
 だから……ファルクのことにはかまわないで、と言いたかったのだろう。

「わかっているよ。安心して、サラは何も心配しなくてもいい」

 しかし、サラはハルの腕の中でうつむいたまま、黙りこくってしまう。
 ハルの瞳の奥に凄まじい怒りの炎が今にも燃え上がらないばかりにくすぶっていることにサラは気づいているだろうか。

 いや、気づいているはずだ。
 昼間、あの男をどうこうするつもりはない、ただし、サラに危害を加えない限りはと言ったばかりだ。

 もはや、サラとて、ハルをとめることはできないと、心のどこかでわかっているはず。

「ハル……私、もうハルと離れたくないの」

 私を連れて行って。
 お願い、と腕の中で切実な声を落とすサラをハルは抱き上げた。

「行こう」

 ハルの声にためらいはなかった。
 ここにサラを残していけるわけがない。
 今度こそ、サラを連れて行く。
 もう、誰にも彼女を傷つけさせはしない。
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