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令嬢は元暗殺者に恋をする
第60章 報復 -1-
 ソファーにゆったりと身をあずけ、ファルクは葡萄酒が注がれたワイングラスを片手に唇を歪めた。
 あと三日もすれば、何もかも自分の思う通りになる。自分の願っていた通りにすべてが順調に。

 そう思うと、気分が高揚しひどく興奮を覚えた。
 ふつふつと、込みあげてくる笑いが止まらない。
 声を上げて笑い出したい気分だ。

 手にしたグラスをゆっくりと転がすように回すと、芳醇な葡萄酒の香りが鼻腔をかすめていく。
 香りだけで心が酔いしれてしまいそうだ。

 そう。
 あと三日だ。
 三日後にすべてが俺のものとなる。
 あの小娘も、あの家もすべて俺のものに!

 しかし……。

 ファルクは片目を細め、忌々しげにくっと口の端をあげ舌打ちをした。
 グラスの中の赤色の液体が、少女の首筋から流れ落ち、白い衣服を染める血の赤と重なった。

 くそ!
 あの生意気な小娘め!

 葡萄酒を一気に飲みほし、口の端からこぼれた液体を荒々しく手の甲で拭いとる。

 この手であの生意気な小娘に思い知らせるため、無理矢理抱いておとなしくさせてやろうと思った。
 生意気な口をきき、いつも自分を見下す目で見ていたあの娘に己の怖さを刻みつけてやろうと。
 そうすれば、二度と夫となるこの自分に、反抗的な態度をとることもないだろうと思った。

 だが、あの娘は自分の想像もつかない行動をとった。
 持っていた短剣でこれ以上近づいたら死ぬと言い出したのだ。

 自分の身を傷つけてまでも逆らってきたのだ。
 やむなく、あの場はあきらめるしかなかった。
 引くしかなかった。
 あれ以上騒がれでもしたら、後々面倒なことになりかねない。

 だが、小娘を屈服させるつもりで抱こうとしていた肉欲をどうすることもできず、トランティアの屋敷を出てすぐ、その足で娼館へと向かい、思う存分商売女を抱き性欲を吐き散らし憂さを晴らしてやった。

 ふと、ファルクは唇を歪めた。
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