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令嬢は元暗殺者に恋をする
第60章 報復 -1-
 足を踏み出しかけたハルに、ファルクはまあ待て、と慌てて手で制する。

「やめておきたまえ。私はこれでも一個騎士団の隊長をつとめているのだよ。知らないのかい? 数々の剣術大会でも優勝をしてきた実力の持ち主だ。そんな私に、女のように細腰のおまえが勝てると思うか? 怪我はしたくないだろう?」

 自分で実力の持ち主だと言ってしまうところが失笑ものだ。そして、その剣の使い手とやらが、シンに徹底的に叩きのめされた。よもや、ハルがそのことを知っているとは知るよしもなく、ファルクはさも誇らしげに続けて言う。

「はは! どうやら驚いて声もでないという様子だな。おまえも」

 と、突きつけたファルクの指がハルの腰の剣を差す。

「その腰に剣を携えているようだが、剣を持つことで、自分が強くなれたと愚かな勘違いをしているのだろう。だが、おまえのような小僧など、ひねり潰すなどこの私にとって、わけもないということだ」

 それにしても、よくもべらべらと喋る男だと、ハルは薄い嗤いを浮かべた。おまけに、反吐がでるほど気色が悪い。この変態男がサラの婚約者だと名乗るだけでも腹立たしい。不愉快だ。しかし、ハルのその嗤いも次のファルクの言葉によって表情から消えていく。

「そうだ。おまえに、いいことを教えてあげようではないか」

 得意げな顔をするファルクに、次は何だとハルは眉根を寄せる。

「私はある組織に、サラ・ファリカ・トランティアの抹殺を依頼した」

 じっと燭台の蝋燭の炎が燃えて揺れる。
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