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令嬢は元暗殺者に恋をする
第63章 報復 -4-
勢いよく真っ正面から駆けてきたファルクの剣が、大きく頭上へとかかげられた。
空を切って振りおろされるその剣を、正確には剣を握るファルクの手首めがけて、蹴りを放ち相手の得物を一撃で叩き落とす。
蹴られた衝撃で痛みに呻くファルクの手から剣が離れ床に落ちたと同時に、怯んだファルクの右足を払い、体勢を崩し前のめりになった相手の鼻面にひじを食らわせた。
容赦なく放たれた鋭い攻撃に、再びファルクの口から苦痛の呻き声。
まさか、挑んだ相手がこんなにも強かったとは……などと思う隙も、息をつく暇も与えず、目を剥いた相手の頬に素早くこぶしを放つ。
まさに、一瞬の出来事であった。
ファルクの身体が勢いよく後方へと飛んだ。
無意識にソファーの横に置かれていたサイドテーブルをつかんで、崩れそうになる身体を支えようとする。が、勢い余ったその身体はテーブルを倒し、ファルクは背を壁に強く打ちつけて跳ね返り、そのまま床に崩れ尻をつく。
その衝撃で、テーブルの上のワインの瓶とグラスが床に落ち転がった。
まだ半分以上も残っていた瓶の中の赤い液体が、とくとくと音をたててこぼれ、床を赤色に染めていく。
それは、まるで血溜まりのようであった。
「……へ?」
間の抜けた声がファルクの唇からもれるのを聞く。
焦点の合わない目で視線を泳がせ、こめかみに手をあて頭を振り、最後に目をしばたたかせた。
何故、自分が床に座り込んでいるのか、そもそも自分の身に何が起きたのか。
状況がわからず、混乱しているという様子であった。
だが、身体に受けた痛みがファルクを現実へと引き戻したようだ。
呻き声をもらし、身をよじるファルクの鼻からつ、と一筋血が流れ、胸元に落ちる。
「血が……かは……っ」
声を発した瞬間、喉をつまらせファルクは激しく咳き込む。
咄嗟に口許に手をあて、そして、赤く濡れた自分の手のひらを見つめ、目を瞠らせる。
さらに不快そうに顔をしかめたファルクは、もごもごと口を動かし、何かを口から吐き出した。
血に染まった歯がころりと床に転がった。
「歯が……折れた……」
ようやく結んだ視線で、おそるおそる面を上げたファルクの目に、息一つ乱さず、片手を腰にあて、薄く笑いながら悠然と立つハルの姿が映る。
空を切って振りおろされるその剣を、正確には剣を握るファルクの手首めがけて、蹴りを放ち相手の得物を一撃で叩き落とす。
蹴られた衝撃で痛みに呻くファルクの手から剣が離れ床に落ちたと同時に、怯んだファルクの右足を払い、体勢を崩し前のめりになった相手の鼻面にひじを食らわせた。
容赦なく放たれた鋭い攻撃に、再びファルクの口から苦痛の呻き声。
まさか、挑んだ相手がこんなにも強かったとは……などと思う隙も、息をつく暇も与えず、目を剥いた相手の頬に素早くこぶしを放つ。
まさに、一瞬の出来事であった。
ファルクの身体が勢いよく後方へと飛んだ。
無意識にソファーの横に置かれていたサイドテーブルをつかんで、崩れそうになる身体を支えようとする。が、勢い余ったその身体はテーブルを倒し、ファルクは背を壁に強く打ちつけて跳ね返り、そのまま床に崩れ尻をつく。
その衝撃で、テーブルの上のワインの瓶とグラスが床に落ち転がった。
まだ半分以上も残っていた瓶の中の赤い液体が、とくとくと音をたててこぼれ、床を赤色に染めていく。
それは、まるで血溜まりのようであった。
「……へ?」
間の抜けた声がファルクの唇からもれるのを聞く。
焦点の合わない目で視線を泳がせ、こめかみに手をあて頭を振り、最後に目をしばたたかせた。
何故、自分が床に座り込んでいるのか、そもそも自分の身に何が起きたのか。
状況がわからず、混乱しているという様子であった。
だが、身体に受けた痛みがファルクを現実へと引き戻したようだ。
呻き声をもらし、身をよじるファルクの鼻からつ、と一筋血が流れ、胸元に落ちる。
「血が……かは……っ」
声を発した瞬間、喉をつまらせファルクは激しく咳き込む。
咄嗟に口許に手をあて、そして、赤く濡れた自分の手のひらを見つめ、目を瞠らせる。
さらに不快そうに顔をしかめたファルクは、もごもごと口を動かし、何かを口から吐き出した。
血に染まった歯がころりと床に転がった。
「歯が……折れた……」
ようやく結んだ視線で、おそるおそる面を上げたファルクの目に、息一つ乱さず、片手を腰にあて、薄く笑いながら悠然と立つハルの姿が映る。

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