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令嬢は元暗殺者に恋をする
第63章 報復 -4-
 ゆらりと揺れる蝋燭の、仄かな炎の灯がハルの美しい容貌を照らす。

 その姿はこの場にはそぐわない色香すらまとい、ファルク自身でさえ、思わず息をするのも忘れ、見入ってしまうほどの凄艶さであった。

 どうして。

 そのきれいな顔で、細い身体と腕で、人を殴ったこともなさそうな、女のように華奢な手で、体格差のある相手をたった一撃のこぶしで叩き伏せてしまうほどの攻撃を放つことができるのか。

 優美な見た目とは裏腹に、とんでもない牙を隠し持っていた。
 それも強暴な牙を。
 単純に腕がたつという域を超えている。

 ファルクは喉につまった血をごくりと飲み込んだ。
 喉を過ぎていく血の嫌な味に、口許を歪める。

「だから、一瞬だと言っただろう。これでも手加減をしてやったつもりだ。そうでなければ」

 殺していた。

 目を細めたハルの瞳の奥に、ちらりと危うい光が過ぎる。

 そう、他愛もない。
 殺そうと思えば、簡単に殺せてしまう。
 それこそ一瞬で。

 そもそも、こんな喧嘩じみた生ぬるい戦い方など向いていないのだ。
 幼い頃から叩き込まれた剣術も格闘術も、それは、暗殺の標的となった者の息の根を一撃で仕留める術。

 故に、ファルク程度の攻撃など、子どもの遊び。
 相手にもならない。

 ハルは足元に転がる剣を見下ろし、くつりと唇に皮肉の笑みをのせる。
 再び緩やかに上げた視線がファルクを真っ直ぐに貫く。

 その藍の瞳に浮かぶは嘲弄。
 騎士が己の剣を簡単に手放してしまうとは、情けないと。

「まさか、これでお終いというわけではないよな?」

 挑発を誘う言葉を口にのせ、落ちていた剣をハルはつま先で蹴った。
 蹴られた剣は床を這うように滑りそして、両脇で垂らし床についていたファルクの利き手にとんとあたった。

 手に触れた剣と、目の前に立つハルを、ファルクは訝しげに交互に見やる。

 どういうつもりだというように。

「もう一度剣をとれ」

 剣を取ってこの俺に斬りかかってこい。
 何度でも貴様を叩きのめしてやる。

 ちらりと横目で、手に触れた己の剣に視線を落としたファルクは、剣に手を伸ばそうとして、いやと、思いとどまり、慌てて引っ込めた。

「聞こえなかったか? とれと言っている」

 有無を言わせぬ口調で、ファルクに圧力をかける。
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