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令嬢は元暗殺者に恋をする
第64章 報復 -5-
 身に刻まれた痛みも、恐怖すらも忘れてしまうほど、それはよほど大切な瓶なのか。
 剣を取るのは嫌だと、涙まじりに情けない言葉を吐いていたファルクだが、咄嗟に手元の剣を握りしめ、ハルに斬りかかろうとした。

 いや、斬りかかるはずであった。だが、剣を振り上げるよりも早く、ハルの足がファルクの手を、握った剣ごとぎりぎりと踏みにじる。

 ハルの足元でぎしりと指の関節が悲鳴を上げている。 
 そして、ファルクの口から迸る絶叫。
 指の何本かは折れただろう。

「負けを認めたのではなかったのか」

「く……」

「負けを認めた時点で、貴様は俺のいいなりになるしかない。逆らうことは許さない。今度こんな真似をしてみろ。次は貴様の指を切り落とす」

「……」

「俺が脅しで言っているのかどうかは、貴様自身が判断しろ」

 けれど、ファルクも瓶を取り返すために必死のようだ。
 こめかみに青筋を浮き上がらせ、小瓶を取り戻そうと腰を浮かせて手を伸ばしてきたファルクの右肩に、そうはさせるかと、ハルは足をかけて動きを封じる。

「ぐあっ!」

 再びどすんと壁に背を打ちつけ、ファルクの口から苦痛の声が上がった。
 手を伸ばせば瓶はすぐに届く位置。なのに取り戻すことができずに悔しがるファルクの鼻先に、これ見よがしに瓶を振ってちらつかせる。

 何故、そこまでしてこの瓶を取り返そうと躍起になる?
 まあいい。
 聞き出せばいいことだ。

「馬鹿なおまえでも、この国の法は当然、知っているな」
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