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令嬢は元暗殺者に恋をする
第65章 報復 -6-
この国は、イザーラとアリシア王女の二派にわかれている。
王を退け玉座についたイザーラ。
だが、すべての者がイザーラに従っているというわけではない。
中には彼女を女王として認めず、アリシア王女を支持する者。
あるいはイザーラにつくべきか、王女につくべきか、成り行きを見守りながら中立を保とうとしている者。
そして、トランティア家は前者だ。そこでイザーラはファルクを使い、この国でもっとも由緒ある貴族のトランティア家を取り込もうとしていた。
ファルクとイザーラの間にどんな会話がなされたのかも、おのずと想像がつく。
サラに毒を飲ませ、トランティア家を乗っ取るよう示したのはイザーラであり、ファルク自身が計画したものではない。
あくまで推測だが、たぶん、間違いはないであろう。
そもそも、この男に悪巧みをめぐらせるだけの能力はない。
女王という後ろ盾を得て、自分が大きな力を持ったと勘違いしたのだろう。
だが、ある意味この男はイザーラによって人生を狂わされてしまった。イザーラに目をつけられることがなければ、彼女の思惑にはまることがなければ、たとえ、サラとの婚約をはたすことができなくても、他の貴族の娘と結ばれ、この男に見合ったそれなりの人生を歩んでいたはず。
哀れだと思わなくもない。
だが、情けをかけるつもりはない。
静かな眼差しでファルクを見下ろすハルの目に、慈悲はなかった。
「ああ……っ!」
もう、これで何もかもお終いだ、と悲嘆と絶望の入り交じった声をもらし、身体を丸め床に突っ伏してファルクは両手で頭を抱え込む。が、ふと、涙混じりの目でハルを見上げた。
「それよりも、ちゃんと答えただろう? さっきから口の中が……血がひどくてとまらない。このままでは死んでしまう」
「安心しろ。その程度で死ぬことはない」
「指も痛いんだ。手当をしなければ……二度と剣を握ることができなくなってしまう。だから早くそれを……」
「そうだったな。返してやる」
ハルは手にしていた小瓶の蓋を器用に片手で開ける。
はじけ飛んだ瓶の蓋がファルクの元へころりと転がった。
親指に付着した液体を舌先で舐め、意味ありげな笑いを浮かべるハルを、何をしようというのかと、まるで恐ろしいものでも見るようにファルクは怯えた目で見つめ返す。
「ただし、貴様の口の中にな」
王を退け玉座についたイザーラ。
だが、すべての者がイザーラに従っているというわけではない。
中には彼女を女王として認めず、アリシア王女を支持する者。
あるいはイザーラにつくべきか、王女につくべきか、成り行きを見守りながら中立を保とうとしている者。
そして、トランティア家は前者だ。そこでイザーラはファルクを使い、この国でもっとも由緒ある貴族のトランティア家を取り込もうとしていた。
ファルクとイザーラの間にどんな会話がなされたのかも、おのずと想像がつく。
サラに毒を飲ませ、トランティア家を乗っ取るよう示したのはイザーラであり、ファルク自身が計画したものではない。
あくまで推測だが、たぶん、間違いはないであろう。
そもそも、この男に悪巧みをめぐらせるだけの能力はない。
女王という後ろ盾を得て、自分が大きな力を持ったと勘違いしたのだろう。
だが、ある意味この男はイザーラによって人生を狂わされてしまった。イザーラに目をつけられることがなければ、彼女の思惑にはまることがなければ、たとえ、サラとの婚約をはたすことができなくても、他の貴族の娘と結ばれ、この男に見合ったそれなりの人生を歩んでいたはず。
哀れだと思わなくもない。
だが、情けをかけるつもりはない。
静かな眼差しでファルクを見下ろすハルの目に、慈悲はなかった。
「ああ……っ!」
もう、これで何もかもお終いだ、と悲嘆と絶望の入り交じった声をもらし、身体を丸め床に突っ伏してファルクは両手で頭を抱え込む。が、ふと、涙混じりの目でハルを見上げた。
「それよりも、ちゃんと答えただろう? さっきから口の中が……血がひどくてとまらない。このままでは死んでしまう」
「安心しろ。その程度で死ぬことはない」
「指も痛いんだ。手当をしなければ……二度と剣を握ることができなくなってしまう。だから早くそれを……」
「そうだったな。返してやる」
ハルは手にしていた小瓶の蓋を器用に片手で開ける。
はじけ飛んだ瓶の蓋がファルクの元へころりと転がった。
親指に付着した液体を舌先で舐め、意味ありげな笑いを浮かべるハルを、何をしようというのかと、まるで恐ろしいものでも見るようにファルクは怯えた目で見つめ返す。
「ただし、貴様の口の中にな」

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