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令嬢は元暗殺者に恋をする
第66章 報復 -7-
「誰が吐き出せと言った」

「何を言っている。毒を……毒を出さないと。おまえもさっきそれを舐めただろう。何ともないのか? おまえは平気なのか?」

「何だ? 俺の心配までしてくれるとは、ずいぶんと余裕だな」

「そうではない! 誰がおまえの心配などするものか! ああ……喉が胸が焼けるように熱い! 手が痺れてきた……ような気がする。きっと、神経が麻痺してしまったのだ」

「神経が麻痺した? それだけよく舌が回るのなら問題はない」

「何を根拠に問題ないと言う! ほ、ほら見てくれ……こんなに……こんなに手が震えてしまっているんだ」

「それは単純に恐ろしさに震えているだけだろう」

「し、死ぬ……このままでは死んでしまう!」

「少量、飲んだだけではすぐには死なないと、自分で言った」

「何が少量だ。私が言う少量とは、ほんの数滴のことだ。なのに、瓶の中身が半分も減っているではないか。半分もだ!」

「たった半分だ」

「だから、それは少量とは言わないのだ!」

「そうか」

「そうか……だと? しれっとした顔で言うな! おまえは馬鹿か? 馬鹿なのか!」

 即効性のない毒だというのは、舐めてわかった。
 飲んで胃の腑を焼くほどの刺激もなければ、すぐに手が痺れる症状があらわれることもない。

 ただ必要以上にこの男が大袈裟に騒いでいるだけ。
 とはいっても、毒を飲まされて冷静でいられるわけもないだろうが。
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