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令嬢は元暗殺者に恋をする
第66章 報復 -7-
「頼む。お願いだ……毒を……」

「お願いの多い男だな」

 ならば、望み通りに吐かせてやると、ファルクの胸ぐらをつかんで立ち上がらせ、壁に押しつけたままみぞおちに痛烈な膝蹴りを入れた。

「かは……っ」

 ファルクの口から液体が吐き出された。
 前のめりになったファルクは咄嗟にハルの両腕をきつくつかんですがりつく。

 そして、そのままずるずると床に膝をついて崩れ落ちた。
 まだ吐き足りないと思ったのか、ファルクは口の中に指を突っ込み、毒を吐き出そうと試みる。けれど、すでに吐くものもなく、血に染まった胃液が流れるばかり。

 涙と鼻水、血に染まったよだれを垂らし、苦しげに嘔吐するファルクの無様な姿を、彼に憧れる社交界の貴婦人たちが目にしたら、逆上せていた気持ちも一気に冷めがっかりするだろう。

 両手を床につき、肩を揺らして荒い息をつくファルクを横目に、ハルは落ちた瓶の蓋を拾う。

「これは、俺が預からせてもらう」

 はい? と、言葉尻を上げてファルクは聞き返してきた。

「預かるとはどういう意味だ。え? おまえはこの私に嘘をついていたのか!」

 足元でファルクが何やら騒いでいたが、考え事に沈んでいたハルの耳には届いていないようであった。
 ファルクの罪を明らかにし、処刑台へと送るつもりはもとからない。
 何より、この毒を差し出した人物がイザーラの手の者だというのなら、これを然るべきところへ持っていったとしても無意味だ。

 偽りとはいえ、相手はこの国の女王。
 ファルクごと証拠を握り潰し、何事もなかったことにしてしまうだろう。
 それだけの力が相手にはある。

 ハルは手の中の小瓶を握りしめ、わずかにまぶたを落とした。
 この瓶をファルクの手から直接、あの方の手に渡すにはどうすればいい。
 つかんだこの好機を無駄にしないためにも。

 考えろ。

 ハルはゆっくりと視線を上げた。
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