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令嬢は元暗殺者に恋をする
第67章 報復 -8-
 にたりと笑って指を突きつけてくるファルクを無視し、敵意を剥き出しにこちらを凝視する男たちに、ざっと視線を走らせる。

 いかにも戦いに慣れているといった風情の、強面の男たちばかりだ。
 剣をかまえる姿も隙はなく、何より彼らの身から放たれる殺伐とした気は本物。
 見せかけではなく、それなりに腕はたつようだ。
 ハルは緩く首を振り。

「困ったな」

 と、ため息交じりの声を落とす。

 加勢が現れたことによって立場は逆転、相手が窮地にたたされたと勝手に思い込んでいるファルクは、困ったと嘆くハルのその言葉に、そうだろう、そうだろう、と二度、三度とうなずく。

 先ほどまでハルの足元で泣いて許してくれと、情けない姿を見せていたこの国一番の剣の名手だが、どうやらすっかり元の調子を取り戻したようだ。

 しかし、ハルが困ったと言ったのは、ファルクの思っているような意味ではない。

 どうやら、ここまでのようだな。
 知りたいことは聞き出した。
 これ以上、ここにいる意味はない。
 今この場でファルクをどうこうするのは得策ではない。
 わかってはいる。

 それこそ、この男に何かあってしまった場合、アイザカーンの暗殺者がいっせいにサラの命を狙うために動き出してしまう。
 それに、イザーラ自身が毒を所持しこの国の法に触れているという罪を問いただすためにも、この男にはまだ少しばかり役にたってもらう必要がある。

 けれど、頭で理解していながらも、ベッドの上で震えながら短剣を握りしめ、頬を赤く腫らしたサラの姿が脳裏を過ぎるたび、抑えきれない怒りの感情が、この男を徹底的に打ちのめしてしまいそうで……。
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