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令嬢は元暗殺者に恋をする
第5章 行かないで ※
 切羽詰まった表情で、お尻をずらして逃げようと試みるが、ハルの手に腰をきつく掴まれ動くこともままならない。

「さあ、どうする? 俺が腰を沈めた瞬間、あんたの中に入るけど」

「いやあ……」

「本気でやめて欲しいのなら、その手で俺を退ければいい。でないとあんた、ひどく後悔することになる」

 いやいや、と泣きじゃくるサラの右手をハルは掴んで持ち上げた。

「この手で俺の頬を引っぱたけばいい。そうしたら止めてやる」

 ぽろぽろと涙をこぼし、訴えかけるように自分を組み敷くハルを見上げた。
 しばしの沈黙が二人の間に流れる。

「叩かないのか? なら……」

「……ハル」

「なに?」

 つかまれていたハルの手を、サラは自分の頬に持っていく。

「……好きなの」

 身体を震わせ、すすり泣きながら好きと呟くサラのまなじりから、あらたな涙がこぼれ落ちハルの手を濡らした。

 こんな目にあいながらも、それでもハルのことを好きだという気持ちに変わりはない。

「どこにも行かないで……行っちゃいや……いや……」

「……」

 頬を叩かれなじられると思っていた。
 好きだと告白され、抱いてみたいという欲望に走ってしまった反面、叩いて拒んでくれればそれはそれで内心ほっとするものも否めない。しかし、サラのその行動はハルにとってはあまりにも予想外のものだった。

 手を握りしめ、好きと涙を流しながら繰り返すサラを、この時初めて可愛いとさえ思った。

「好き……私の前から消えたりしないで……」

「おまえ……」

 好きと呟くサラの言葉が深く胸に突き刺さる。
 こんな気持ちにさせられたのは多分、初めて。

 すっと、ハルのまとっていた攻撃的な気配が消えていった。
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