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令嬢は元暗殺者に恋をする
第67章 報復 -8-
「待てっ! 待って……くれ」

 すぐ背後にいる男がかすれた声で呟く。
 男の緊張が背中越しに伝わってくる。

 それでいい。
 この男のために、無駄に命を投げ捨てる愚かな考えは起こすな。

「滅多なことでは剣を抜かないようにしている。何故だかわかるか?」

「そんなこと、この私が知るか!」

「人が変わるからだ」

 刃を向けてきた者は容赦なく殺せ。
 敵とみなした者はひとり残らずその息の根をとめろ。
 己の姿を見られたら、あるいは、正体を知られたら、誰も生かすな。
 たとえ、女や子ども、ものを言わぬ赤子でも、例外なく殺せ。
 そう、教え込まれてきた。

 そして、その教えを違わず忠実に従ってきた。
 それが自分がいた暗殺組織の掟であったから。だが、組織を抜けた今となっては、その定めごとに従う必要はない。
 けれど、身についた習性は簡単には抜けきれるものではない。
 ひとたび、剣を抜いてしまったら、自分でもどうなってしまうかわからない。
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